「人類運命共同体」理念を表明―対外政策に反映―

2024-03-06 18:20:00

名古屋外国語大学名誉教授・日中関係学会副会長 川村範行=文 

政府活動報告(以下、報告と称する)の対外政策には、中国が提唱する理念「人類運命共同体」(以下、理念と称する)が明確に表明されている。「中国は国際社会と共に、グローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブ、グローバル文明イニシアチブを実践し」と、三つのイニシアチブを挙げて、「全人類共通の価値観を高揚し、グローバル・ガバナンス体系の変革を促し、人類運命共同体の構築を推進していく」と表明している。中国主導の国際新秩序づくりへの意欲を示したものと言える。 

習近平国家主席が2013年に提唱した「人類運命共同体」の考えを基に、中国国務院新聞弁公室が昨年9月に発表した『手を携えて人類運命共同体を構築:中国のイニシアチブと行動』白書(以下、白書と略する)には理念の全容が記されており、白書にある理念の趣旨が、今回の報告にそのまま反映されている。日本のメディアは同白書についてほとんど報道していないが、人類運命共同体の理念は国連総会で17年から毎年決議採択され、賛成国が100カ国以上に増え、中国の「世界観」を知る上で重要である。 

今回の報告では、質の高い「一帯一路」共同建設の推進と、そのための「8項目行動」の実行を強調している。これは、昨年10月に北京で開催された第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで習近平国家主席が述べた重要演説の骨子に当たり、そのまま報告に再現されている。中国は過去10年間に150カ国・地域、30の国際機関と「一帯一路」協力協定に調印、アジア、欧州、中近東、アフリカ、南米に至る世界で最も広範囲で最大規模の国際協力プラットフォームを造り上げた実績がある。21世紀のシルクロード「一帯一路」は理念の「実践」として白書で位置付けられており、報告でも重視されている。 

報告では、従前からの「独立自主の平和外交政策」と「平和的発展の道」を堅持し、「互恵・ウインウインの開放戦略」の実行と、「平等で秩序ある多極世界と互恵的・包摂的な経済グローバル化」を提唱している。欧米や日本では中国の国家安全重視の姿勢を懸念し、対中投資を手控える動きも一部にあり、中国はこうした懸念に配慮し、対外政策の透明性を増やす努力が必要である。 

また、報告では覇権や封じ込めに反対し、「世界の公平と正義を守らなければならない」と主張する。これは米国主導の対中封じ込めや経済切り離し(デカップリング)への対抗を意味する。米国を名指ししての強い批判を控えたのは、米中両国間で昨秋の首脳会談以降、高官協議や国防対話などが進められていることへの配慮とも読める。 

一方、東アジアの安全保障に影響する台湾問題について、報告は「一つの中国の原則と『92年コンセンサス』を堅持し、『台湾独立』分離活動と外部からの干渉に反対する」と従来の基本方針を主張し、台湾民進党の独立志向へくぎを刺している。一方で「両岸関係の平和的発展を促し、揺るぐことなく祖国統一の大業を推進」と記し、「両岸の融合発展を深化させ、両岸同胞の福祉を増進させ、心を一つにして民族復興の偉業をともに成し遂げる」と、台湾同胞に統一を呼び掛ける丁寧な説明になっている。昨年の李克強総理の報告や22年の中国共産党第20回全国代表大会における習近平総書記の演説と比べて、「平和的統一」の言葉はないが、「武力行使の放棄を確約しない」との強い表現も消えた点に注目する。 

世界各地で地域紛争が頻発し、世界は百年に一度の大変動期にあり、世界経済も中国経済も不安定な中、「人類運命共同体」理念に基づく中国主導の世界新秩序づくりが将来どこまで進むか―今回の報告の具体的な推進が、21世紀の世界の動向を左右する。 

人民中国インターネット版

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