台湾問題を日中関係の妨げにしてはならない

2024-03-07 16:23:00

元駐中国日本大使 宮本雄二(談) 

平和、友好、協力以外の選択肢はない 

昨年は日中平和友好条約締結45周年だった。締結当時、なぜ人々が平和友好条約を締結しようと考えたかというと、日本の中国侵略と第2次世界大戦の経験があったからだ。その当事者同士が二度と戦ってはいけないという強い信念を持って日中共同声明を発出し、それをより確実な基礎の上に置くために、平和友好条約を作らなければいけないと決めた。 

日中平和友好条約の根本目標は、日中間に平和、友好、協力の関係を築くことだ。そもそもわれわれに、それ以外の選択肢があるのだろうか。平和の否定は戦争で、友好の反対は敵対だ。そして協力の反対はいわゆる没交渉、デカップリングとなる。こうして反対語を並べてみれば、それ以外の選択肢がないということがよく分かるはずだ。 

私は、日中平和友好条約の根本目標をいかに実現するかを考えるのが、現在生きているわれわれの責任であって、これからの日中関係をどうしようかなどと改めて考える必要はないと考えている。なぜなら、先人たちが日中平和友好条約において指し示してくれた日中関係のあるべき姿は、今日においても正しいと信じるからだ。そして世界の一体化がこれほどまでに進み、人類が名実共に運命共同体となった今こそ、先人たちが望んだ日中関係を作り上げ、日中が手を携えて世界の平和と発展のために積極的に貢献する必要があると思っている。 

直接交流の重要性を再認識 

かつては「以民促官」、すなわち民をもって官を促すという言葉がよく口にされた。条約締結当時の日本社会には、中国に対する温かい気持ちにあふれ、とりわけ多くの人たちが中国に対して申し訳ないことをしたと考えていた。つまり、中国とは良い関係を作らなければと考える国民が大多数だった。 

しかし時代は変わった。相手を客観的に公平に眺めることはなかなか難しい。特に隣国同士ではそうだ。今は多くの日本人が中国を好きではないと言っている。日中双方の努力が不可欠だが、現時点では日本においてより多くの努力が必要である。 

「国民同士が直接触れ合い、理解し合うことができれば、日本と中国は親しくなる」というのが私の信念だ。まずは直接、接触することだ。日本と中国には共通の文化的背景がある。ものの考え方や物事の是非も、根本的な部分で共通している場合が多い。日本の価値観は儒学や仏教の思想の強い影響を受けて形成されており、これは中国を経由してもたらされた。日本が受け入れた仏教は、経典が中国語に訳され中国で発展した中国仏教で、これは儒教と道教の強い影響を受けている。従って国民同士が直接触れ合い、理解し合えば、お互いへの敬意が生じ、信頼が生まれ易いと私は思っている。そうした国民の思考回路が再確認できれば、日本と中国は仲良く手を結び、永遠の友人・隣国としての関係が続くことが可能となる。 

日本では9割の国民が中国は好きではないと言っているが、同時に7割が中国との関係を改善すべきと回答している。関係改善を求める日本国民が多いことには元気づけられるが、日本国民の対中観の改善はやはり必要だ。今、日中双方が協力して行うべきことは、より多くの日本人を中国の普通の人々(老百姓)と触れ合わせることだ。これはこの数年においては特に重要なことであり、中国に行く日本人を増やすことに注力すべきであり、中国政府には日本人が中国に行きやすくなるための環境整備に尽力してもらいたいと思っている。 

民間にもできることがある。日本人が本当に行きたがるような特別な旅行商品を開発することも一案だ。例えばマニアックな趣味を持つ人々を対象にした中国ツアーなどはどうだろう。中国の悠久の歴史に着目して歴史マニア垂ぜんの観光プログラムを作れば、参加者は千人単位で集まるのではなかろうか。旅程に加えて中国に行ってよかった、快適だったと思えるようなレベルの宿泊施設も必要だし、最も大切なのはレベルが高いツアーガイドだ。この三つがしっかりそろっていれば、参加費が多少高くても中国に行く人は少なくないはずだ。参加者から中国での楽しい体験が口コミで広がれば、次の年にはより多くの参加者が見込まれる。大切なのは、そのツアーでは必ず中国の若者との交流の機会を作ることだ。彼らの柔軟な意見や発想に触れることで、今まで抱いていたステレオタイプの中国観と違う中国を肌で感じてくれることだろう。 

もちろん、政府レベルでの交流も必須だ。岸田文雄総理と習近平主席はすでに2度も「建設的かつ安定的な日中関係」の方向性を打ち出しているし、昨年11月の会談では「戦略的互恵関係」を包括的に推進することを再確認している。両国政府には具体的な協力関係の構築を、スピード感を持って実行していただきたい。政府間の対話の強化はもちろんのこと、協力を約束しているプロジェクトも多いのだから、一刻も早く動かしてほしい。政府が積極的に行動を起こせば、国民も前に進み始める大きな推進力となる。 

腹蔵なく話し合える関係を 

「一つの中国」の原則を巡る「台湾問題」は、1972年の日中国交正常化のときから日中間の最重要問題の一つであった。われわれは「台湾問題」が日中関係発展の障害やマイナスにならないためにはどうしたらいいかを念頭に置いて丁寧に対応してきた。台湾海峡の平和と安定は、中国にとっても日本にとっても非常に大事なことなので、日中両国はもっと真剣に話し合うべきだと思う。日本では、「台湾有事は日本の有事」などという声が聞かれるが、中国が「台湾有事」を何の理由もなしに実行することはないと私は見ている。万一起こるとすれば、米国が「一つの中国」の原則を巡り、間違った手を打って中国が対抗するというシナリオだろう。 

仮に「台湾有事」になれば、米中の軍事衝突となり、日米安全保障条約の枠組みの下で、日本も間違いなく関与せざるを得なくなる。当然中国大陸も台湾も日本も大きな被害を受けるだろうが、事態はそこにとどまらないだろう。米中の軍事的対立が世界に広がり、世界の株式市場は大暴落し、世界経済はまひし、世界は大不況に陥るというシナリオすら想定できる。全世界に悲惨な結果をもたらすのだ。 

よって今、私たちが何をすべきかというと、それは「台湾有事を起こさないためにはどうしたらいいかを必死になって考え、力を出し合う」ことに尽きる。 

「台湾有事」を未然に防ぐには、やはり中国と本当に真剣に腹蔵なく話し合える関係が必要だ。米国とも同様な関係を作り、二者がぶつからないようにする努力をしなければいけない。日本では「台湾有事」のために軍事面での議論が目立つが、軍事的対応だけでは事態は安定化しない。一方の軍事的対応は、もう一方の軍事的対応を呼び込み軍拡競争が加速するだけだからだ。軍事的対応による抑止力の強化は一時的なものだ。相手が対応すれば、そこで効果はおしまいとなり、さらなる軍事的対応が必要となる。しかし日本は何もせず中国だけどんどん強くなっていくのも困るので、日本が軍事力を強めることに反対はしない。しかし軍事力を強めさえすれば物事が解決するとは、全く思っていない。外交の力を全力で注入し、いかに問題発生を防ぐかの努力をすべきだ。それ以前に台湾海峡両岸の当事者同士が話し合い、解決へと導くことを心から願っている。 

中国には台湾関係の戦略があり、公開された文書を私は読んだことがあるが、そこには「台湾を軍事的に解放する選択肢は放棄しない」と書いてはあるものの、その前にやるべきことがたくさん書かれている。このことからも、台湾との平和的解決のために努力しようとする中国大陸の覚悟が見て取れる。中国は今後も軍事力を間違いなく強めていくと思うが、しかし最も重要なことは台湾に住む人たちの心をつかむということであり、そのために全力を尽くしてほしいと思う。そのためにも平和的な話し合いの機会を持つことが何よりも大事である。話し合いの内容について、部外者のわれわれは立ち入ることができない。だからこそ、より早期に話し合いの機会ができることを心から祈っている。 

(李一凡=聞き手・構成)

人民中国インターネット版

 

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