厳しい状況下も中国市場の魅力変わらず

2025-03-05 17:45:00

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 瀬口清之(談)  

今年は「第14次五カ年計画(2021~25年)」の最後の年にあたり、この5年間は中国経済にとって大きな転換期であったと言えます。1980年代から始まった高度成長時代が終わり、現役で働く世代が一度も経験したことがない厳しい経済情勢に直面することとなりました。そのような中で、中国政府が経済の大混乱を防ぎ続けてきたのは、簡単にできることではありません。2012年以来、リスク管理を念頭に多角的な対策を講じてきたことはもちろん、そのさらに10年前から危機に備えた積み重ねが、現在の国家体制を支える堅固な基盤となっています。 

難題解決続く5年間 

これからの五カ年計画においても、厳しい状況が続く可能性は高く、構造的な難題に直面する時代が続くと予想されます。 

第一に、少子高齢化の進展に伴い労働力人口の減少スピードが加速することが挙げられます。10年代半ばから労働力人口は徐々に減少し始め、現状では大学生の就職難が問題となっていますが、数年後には逆に労働力不足という新たな課題が浮上すると考えられます。 

第二に、都市化のペースの減速も見逃せません。従来、農村から都市への流入が続いていたものの、そのペースは鈍化しており、今後はさらに鈍化のペースが速まり、農村から都市へ移動する人の数が減少する可能性が高いと私は見ています。 

第三に、大規模なインフラ建設投資の減少です。これまでの段階で重要なインフラ建設案件はほぼ完成しているため、先行きについては従来のような大型投資案件がもたらす高い経済効果が期待しにくくなっている状況です。 

これらの3点の要因が20年代後半に生じることは10年以上前から予測されていたため、中国政府もあらかじめ対応策を講じてきました。しかし、実際にこうした構造変化が起こってしまえば経済成長の低下は免れないと考えられます。 

このような局面の中、住宅を購入したにもかかわらず、住宅が提供されていないという事態が生じています。経済と社会の安定を保つためには、そうした人々に対して確実に住宅が提供されるよう、中央および地方政府が連携し、的確な対応策を講じることが極めて重要です。地方財政の逼迫に対しては、産業基盤の弱い地域への補助金支給を拡大する一方、経済発展基盤のしっかりした地域においては昨年12月25日に発表された政策に基づく自由な資金調達と柔軟な政策運営を促進することが求められます。すなわち、「弱い省へのサポート強化、強い省の自由度拡大」という双方向の施策が、今後の鍵となるでしょう。また、一般庶民の将来不安を和らげるための失業保険、医療保険、養老年金といったセーフティネットの強化も不可欠な政策課題となっています。これらは、次の五カ年計画において中国政府が真剣に取り組むべき重点課題であると言えます。 

外資参入の成果と日中協力 

厳しい局面が続く中でも、中国経済には明るい側面が存在しています。1990年代以降、一貫して非常に積極的に推進されてきた外資導入政策により、世界中の有力企業は中国への関心を持ち続け、グローバル市場で高い競争力を持つ一流企業においては、今後10年は中国が世界で最も魅力的な市場であり続けると認識されています。 

外国企業の対中投資促進はこれからも中国にとって欠くことのできない重要課題となっています。日中間の場合、日中関係の根本的な改善がそのための不可欠な前提条件です。日本人が中国に対して安心感や信頼を持てる関係性の構築が、対中投資促進に大きく寄与するでしょう。その点、短期ビザ免除は大きなプラス効果があります。今後日本の人々が経済面で強く期待しているのは日本産の水産物、牛肉、米などの輸入制限の撤廃です。 

加えて、石破総理が中国を訪問し、習近平主席が日本を訪問するという両国首脳往来の早期実現が非常に重要です。それと同時に、中国人の日本旅行が一段と活発化することも、両国の相互理解を深める上で大きな効果が期待されます。日本のメディアによれば、最近、中国人旅行者のマナーは比較的良くなっていると報じられています。レストランに行っても日本のマナーを重んじて静かに食事をしていますし、電車内では携帯電話使用を控え、会話に際してもあえて声のトーンを落とすなど、日本のマナーをよく理解していると評判がよくなっています。こうした中国人旅行者が増えると、日本人の中国人への見方はどんどん良くなっていくでしょう。 

首脳往来、一般庶民の直接交流、経済規制の緩和が関係改善の三本柱となり、それが充実していけば日本企業の人々も安心して中国に投資をするようになっていくと思います。確かに中国経済の成長率は以前に比べて低下していますが、個別の市場分野においては依然ビジネスチャンスがあります。トヨタがレクサスの工場を上海で建設すると発表したのは、そうした見方を示す象徴的な事例です。日中関係がより改善すれば、こうした流れが加速すると考えられます。 

自由貿易の礎を守る 

トランプ政権は各国に対し、相次いで追加関税を発表しましたが、今のところ中国に対しては予想されたほど強硬な姿勢が示されていないと見られています。先行きを展望すれば、トランプ政権の関税政策に対抗するには、日中韓3カ国を含む世界各国の協力が不可欠です。 

日中韓協力については、最も大切なのが自由貿易の推進です。自由貿易の枠組みとしてはまずWTOがあります。さらに中国は環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)への加盟も目指しています。これらを軸に日中韓三国が先頭に立って自由貿易推進の動きをつくり、世界各国を巻き込むことが望まれます。米国のWTOのルールを無視した貿易摩擦に対して個別に報復制裁をするのではなく、WTOのルールに基づいた措置による対応を徹底することこそが、日中韓三国の共通のやり方であるべきではないか私は思います。それは短期的な効果としては有効ではないかもしれませんが、自由貿易の原則を徹底する姿勢を世界に示す意義は極めて大きいと言えるでしょう。 

さらに、中国のCPTPP加盟は非常に大きな意義を持ちます。CPTPPでは日本がリーダー国になっているので、日本と中国の間で中国がCPTPPに加入するために必要な条件を分野別にはっきりと明示する対話の場を設けることが重要だと私は考えています。 李一凡=聞き手・構成 

人民中国インターネット版

 

関連文章