大阪・関西万博・陝西ウイーク 時を超えてつづる緑の新章
潘睿=文 中国国際貿易促進委員会=写真提供
7月8日、「グリーン・未来」をテーマとした大阪・関西万博中国館「陝西ウイーク」が正式に幕を開けた。開幕式には、中日両国政府要人、国際機関代表、各国パビリオンの館長、日本の友好都市代表、経済界、メディア関係者など約80人が出席した。3日間にわたるこの文化・経済交流の盛会は、伝統と現代、エコロジーとテクノロジーが融合した「活力ある陝西」の姿を示した。
同イベントでは、新技術を活用して時空の壁を越え、洋県自然保護区で人工繁殖されたトキ12羽の野生放鳥の様子を、5G(第5世代移動通信システム)技術を用いて中国館の大型スクリーンにリアルタイムで映し出した。また、来場者はデジタル長巻「三秦四季」を通じて、陝西の四季折々の風景や兵馬俑などの世界遺産を楽しむことができ、加えてホログラム投影により秦嶺生態修復の体験型実験にも参加することができた。
実体展示では「中外友好」と「グリーン発展」を軸とし、無形文化遺産の工芸品や新エネルギー技術に関連する展示品を通じて、シルクロードの起点から「ダブルカーボン」実践の最前線に至るまで、陝西の千年にわたる発展の歩みを描き出した。
没入型展示のほか、中日両国の高齢者産業に関する対話プラットフォームも設けられた。両国の関連産業の関係者が積極的に意見を交わし、西安における介護産業の発展モデルや、大阪の介護ロボット技術についても深く共有された。
生態保護・文化観光・経済交流を一体とした陝西ウイークは、「グリーン陝西」という新たな名刺を世界に示しただけでなく、文化的共鳴を通じた実務的な協力を期待させ、地域協調発展に新たな原動力を注ぎ込んだ。
文化財の活性化
中国館の「文化財展示キャビネット」エリアでは、陝西省宝鶏市で出土した西周時代の青銅祭器「何尊」の複製品の前に、常に来場者が集まっていた。この青銅の酒器は、周の成王5(紀元前1038)年に宗族の貴族「何」のために作られたもので、器の内底には12行122文字の銘文が鋳込まれており、周の武王の遺志を継いだ成王・姫誦が、成周(すなわち洛邑、現在の河南省洛陽市)を築いた後、宗室の若者に訓戒を与えたこと、そして文王が天命を受け、武王が殷(商)を打ち倒したことなどが記されている。中でも「宅兹中国(ここに中国を築く)」という4字の銘文は、「中国」という言葉の現存する最古の文字記録として知られており、「最古の国宝」ともたたえられている。
来場者は展示ケース越しに、展示品後方にある銘文の拓本を見つめながら、「中国」という文字を一生懸命探していた。また、「何尊」の胴体に描かれた厳かな「獣面文様」にも魅了され、ガイドにその意味を尋ねる姿も見られた。
陝西は中華文明の重要な発祥地として、常に文化財の守護者・伝承者の姿勢を貫き、その保護および活性化・利用の新たな章を記してきた。1974年に発見された秦始皇陵の兵馬俑、2012年に「中国考古新発見」となった超大型の史前城郭遺跡「石峁遺跡」(約4300~4000年前)、23年に同じく新発見として選ばれた「寨溝遺跡」(約3200年前)、および第4次全国文化財調査(23年11月~26年6月)における、陝西の史前遺跡、周・秦・漢・唐の遺跡などからの数多くの画期的な発見……三秦大地におけるこれらの発掘作業は、中華文明の根源を探る重要な営みだ。
陝西は「保護第一・管理強化・価値発掘・有効活用」の方針を掲げ、文化財が博物館のガラスケースの中だけでなく、現代の人々の日常生活に「歩み出す」ことを目指している。この5年間で200回以上の海外巡回展が陝西の物語を世界に届けた。また、「博物館+(プラス)」の戦略により、文化財とデジタル技術やクリエーティブデザインの深い融合が進んでいる。例えば、陝西歴史博物館のデジタル文化クリエーティブコンテストや、秦始皇陵博物院の「インターネット+文化財教育」プロジェクトは、若者向けの表現を通じて、古代文明の現代的語りを築いている。
無形文化遺産の展示エリアでは、皮影戯(影絵芝居)が職人の指先で舞い、剪紙(切り絵)がはさみの下で花開いた。これらの巧みな演技と技術は、陝北(陝西省北部)文化の豪放さと繊細さを鮮やかに体現した。
無形文化遺産は閉ざされた標本ではなく、流れる血脈である。陝北では、今年の春節(旧正月)期間に楡林秧歌公演がネット上で1000万人以上の視聴者を魅了した。陝南(陝西省南部)では、三国時代に起源を持つ「漢中藤編」(籐工芸)が村人たちを豊かにする「金の鍵」となり、無形文化遺産伝承拠点の整備や産業集積が進んだ。伝統文化は「創造的転化・革新的発展」を通じて、産業と生活の中に着実に溶け込んでいる。ある漢中藤編の伝承者はこう語る。「一本一本の籐は、祖先の知恵を編み込むと同時に、未来の可能性も編み出しているのです」
文明は交流によって多彩になり、互いに学ぶことで豊かになる。陝西はこの大阪・関西万博を通じて、悠久の文明がいかにして新時代に新たな生命を得るかを、世界に向けて力強く発信していく所存だ。
秦嶺の生態保護ネットワーク
中国館の「緑水青山」展示エリアには多くの来場者が詰め掛けた。5G技術により、陝西省洋県の自然保護区が大阪に「転送」され、漢江のほとりを舞う12羽のトキの姿が大型スクリーンに映し出された。朱色の翼が水面をかすめると、波紋が幾重にも広がる。展示エリアの反対側には「二十四節気」を軸とした映像ウォールがゆっくりと開かれ、啓蟄の頃には秦嶺の奥地で新芽が土を割り、秋分の頃には黄河のほとりに麦の波がうねる。
観客はトキが水面をかすめる一瞬を撮影したり、節気映像に映る美しい秦嶺の風景に見入ったりしていた。これらの映像は、「緑の山と清き水こそが真の宝である」という理念を実践する陝西の生き生きとした証しだ。
秦嶺は「中国の中央水塔」とも呼ばれ、中国の南北を分ける自然の境界線となっている。豊かな降水により、秦嶺は長江と黄河の重要な支流の源となり、南水北調(南の水を北へ送る国家事業)にも水を供給する。秦嶺の生態系は、中国の水安全を支える中枢なのだ。近年、陝西は秦嶺を軸に、生態保護のネットワークを全域に張り巡らせてきた。秦嶺の奥地では、135・2万ムー(約9万㌶)に及ぶ生態修復区が、かつて荒廃した山林を再び緑で覆った。地域をまたぐ協同保護メカニズムにより、12の県・区が国家級の生態文明建設モデルエリアに選ばれた。黄河流域の「三北」防護林プロジェクトでは、95・4万ムー(約6・4万㌶)の砂漠化地域が緑に変わり、26カ所の都市部の汚水河川は都市ごとの科学支援で清流へと再生した。また、南水北調中線事業の陝西区間に当たる漢江・丹江の水質は11年連続で「優」を維持し、白河県では硫化鉄鉱山の汚染処理と漢江流域の生態修復が並行して進められている。こうした取り組みにより、水源地保護が一層強化され、「清き水を永遠に北へ」という目標が現実となりつつある。
陝南地域では、生態環境の向上により、「東洋の宝石」とたたえらえるトキの個体数が保護当初の7羽から7000羽以上にまで回復し、IUCN(国際自然保護連合)から「世界的な絶滅危惧種の救済成功例」と評価された。陝北では、かつて水と土の流出が深刻だった延安市第二の大河・延河が、昨年「国家美麗河湖優良事例」に選ばれ、黄土高原が「砂が攻める」から「緑が攻め返す」へと逆転を遂げた。関中(陝西省中部)地域では、大気汚染対策の専門チームが環境収容量に基づいて産業構造を見直し、大型化学企業の移転や改造が進んでおり、西安や咸陽の空気質も着実に改善されている。
「緑水青山」展示エリアのスクリーンに映し出された秦嶺の雲海や、漢江沿いに揺れる稲の波は、中国西部で今まさに進行中のグリーン革命を象徴している。漢中湿地公園をそぞろ歩くトキたち、黄帝陵を囲む3万本以上の樹齢千年の古柏、秦嶺の奥地にあり国連世界観光機関(UNWTO)によって「世界最高の観光村」に選ばれた商洛市柞水県朱家湾村……それらは全て、このグリーン革命の美しい一断面である。
グリーン技術が切り開く未来
7月10日、東京スカイツリーの足元にある会議ホールで、「グリーン低炭素・協力ウインウイン」をテーマにした「中国(陝西)―日本経済貿易協力フォーラム」が開催された。陝西省政府の代表団、日本の政界関係者、駐日本中国大使館経済商務処の代表、日本の業界団体や企業の幹部らが集い、新エネルギー車、環境保護技術、現代農業などの分野での協力可能性について意見を交わした。この場は、陝西のグリーンな産業転換の意志を日本の経済界に示すとともに、より深い協力関係の構築に向けた誠意ある提案でもあった。
現在、西安ハイテク産業開発区にあるBYD(比亜迪)生産拠点では、自動化されたラインが50秒に1台の割合で新エネルギー車を生産しており、自動車産業の地図を書き換えつつある。西安は、上流のリチウム資源開発から中流の動力電池製造、下流のスマートコネクテッドシステムの研究開発まで、完全な新エネルギー車のサプライチェーンを構築しており、あらゆる段階で技術革新が進んでいる。陝汽集団が展示した水素燃料大型トラックは、航続距離が1000㌔を突破し、グリーン物流の分野で注目を集めている。
陝西の産業アップグレードは、それだけにとどまらない。秦嶺山脈近くの良質な薬草資源を生かし、中医薬企業が現代的な抽出技術を導入して伝統処方を再生させている。楊凌農業ハイテク産業モデル区のスマート温室では、研究者がIoT(モノのインターネット)を用いて温湿度などの環境パラメータをリアルタイムで管理し、トマトの収量と品質の向上を実現している。渭南工業パークでは、ナノ素材の応用により太陽光パネルの発電効率の限界を突破しつつある。こうしたイノベーションの積み重ねが、「技術革新を駆動力とし、グリーンへ転換する」という陝西の産業発展の道筋を描き出している。陝西省商務庁の責任者はこう語った。「私たちは金山銀山(経済的豊かさ)を追い求めるだけでなく、後の世代に緑の山と清い水を残したいのです」
朱色の翼を広げるトキの舞う漢江の湿地、無土栽培で育つスマート温室のトマト、「中国」と刻まれた「何尊」の銘文、そして水素燃料大型トラックのグリーンの軌跡──陝西は今、悠久の歴史とグリーンな未来を融合させた「中国の名刺」を世界へ差し出そうとしている。文明の守護者、生態の実践者、イノベーションの開拓者──陝西はこの三つの姿をもって語り掛ける。真の継承とは、革新の中にこそ命脈を保つものであり、持続的な発展とは、共生の中でこそ地球の未来を紡ぐものであると。