東アジアの「一帯一路」と運命共同体の未来——中国ラオス鉄道は「宣言書」「宣伝隊」「種まき機」
東洋学園大学客員教授 朱建栄
ご紹介いただきました朱建栄と申します。私のテーマは東アジアの「一帯一路」と運命共同体の未来。特に一昨年、中国ラオス鉄道に自分で乗ったということから、そこから東南アジア、東アジア全体というところへの影響を、ここで考えていきたいと思います。
中国ラオス鉄道の意義というと、私は中国の現代史の研究者として、1935年11月5日に毛沢東主席が行った赤軍の「長征」に関する有名な演説のフレーズを思い出す:
「長征は宣言書であり、宣伝隊であり、種まき機である」
労農赤軍は11の地域の1万キロ以上を徒歩で通り抜けたことを通じて、中国革命は必ず勝利することを宣言し、沿路で旧世界打破の必要性と可能性を宣伝し、そしてこの理想に無数の志士を集めた「種まき」を実践しました。中国はその後、15年未満で新中国建国を迎えました。
中国ラオス鉄道も、東アジアの共同富裕、「地域運命共同体」に向かって踏み出した第一歩と見ることができよう。
この鉄道については、皆さんもご存知なのでここで細かく言いませんが、全長1000キロ以上、ラオス国内は422キロです。ラオスという国は、山岳地帯、高原地帯、軟弱な地層に加えて、かつてベトナム戦争で米軍が落とした不発弾は無数残っています。
そこで、ラオス国内の線路は、トンネルが全長の46%、橋梁は全長の14.9%を占めるほど難工事だったわけです。費用の7割は中国出資。2021年12月に開通し、23年4月から中国の昆明からラウスのビエンチャンまでの直接一貫運行が始まりました。
これまで2年間、世界112の国と地域から来る越境乗客48.7万人を含む計191万人を運び、定時運行率は99%以上を維持しています。特に、24年の輸送人員は初年度に比べ60.2%増加しました。全コースの走る時間は9.5時間に、国境での通関時間も50分に短縮されました。
経済発展への影響は絶大です。今年3月まで、二つの5000万達成、と発表されました。合わせて5000万人以上の客を輸送したこと、5000万トン以上の貨物を輸送したこと。そのほか、越境貨物列車の運行本数は開業当初の1日2本から18本まで増え、輸送品目は500種類から3000種類以上に拡大しました。
ご存知のようにラオスは、ほかの国に囲まれて海への出口がない国です。この建設はラオスにとって、「陸の閉鎖国」から「ランドリンク国(land-linked Country)」への逆転の夢を賭けたものです。
実際に開通1カ月後早くも、ラオスの輸出入は長年の赤字から黒字に転じ、最初の一年間の物資輸送量は前年比95%急増したわけです。今ラウスは2026年までに国連が認定する「最貧国」からの脱却を宣言しました。
中国ラオス鉄道は、ラオスにとどまらず、周辺諸国にも影響を与えています。中国ラオス鉄道とベトナム中部のブンアン港を結ぶ鉄道システムの建設にラウスとベトナムの間で合意し、韓国国鉄会社が建設を協力します。ベトナム国境までのところは、28年にまず開通してつなげていくということがもう見えています。
また、まだ検討中ですが、カンボジア側がラオス鉄道を自国に延長させることを企画しています。
そして、高速鉄道の建設をめぐって二転三転したタイとマレーシアは、ラオス鉄道の開通で決断しました。今年の1月、タイはラオス経由で中国に結ぶ高速鉄道に正式に着工し、30年にまでに開通することを発表しました。
23年10月、インドネシア高速鉄道(ジャカルタ・バンドン間、時速350キロ)が開業しました。これは中国以外の世界で一番速く走る鉄道と現地の人々は誇っています。
それから、ベトナムは、ハノイを中心に中国と3本の鉄道でつなぐということに合意し、30年の運行開始を予定しています。さらに、これは鉄道ではないのですが、カンボジアでは去年8月、フナン・テチョ運河の着工式が行われました。中国の協力で首都付近のメコン川からタイ湾までの180キロ、工事費17億ドル、28年に完成する予定です。
これらの一連の動向によって、「パンアジア鉄道経済圏」構想は、もはや夢ではなく、東南アジアでは確実な姿が見えてきたのです。そのカナメと火付け役はまさに中国ラオス鉄道です。
福山秀夫・一帯一路日本研究センター理事は更に、北東アジアの日本、中国、韓国における密接な海上輸送を、中欧班列、そして東南アジアとつなげていくことによって、「東アジア国際複合輸送共同体」の構築を目指していこうと呼びかけています。
こういうようなことについて、国際的には二つの相反する反応が出ています。「一帯一路」イニシアティブに対して、トランプ1期目でも不機嫌な顔を見せました。しかし、実際の行動というと、バイデン政権になってからです。バイデン政権の間に、「一帯一路」に対抗する「大プロジェクト」を三回も打ち出していました――
〇21年6月、バイデン大統領はイギリス・コーンウォールで開催されたG7サミットで、「共有の価値の下、高い基準と透明性をもった主要な民主主義国家による」中低所得国向けのインフラ投資計画として、「より良い世界の再建を(Build Back Better World=B3W)」を打ち出しました。
〇不発に終わったため、翌22年6月、同大統領はドイツ・エルマウG7で新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」を提出しました。中・低所得国に5年間で6000億ドルを投入する構想でした。
〇これも空中分解したため、23年9月、バイデン大統領はインドで行われたG20サミットに合わせ、インドから中東を経て欧州を鉄道・港湾網で結ぶ「経済回廊構想」を発表しました。
この三回の大風呂敷構想は今、誰が覚えているでしょうか。
一方、東南アジアなどは「一帯一路」を通じて、中国とのウインウインの関係、運命共同体になるということにもっと期待が増えていると言えます。
シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所は、ASEAN10カ国で識者に対する意識調査で「競争する米中を二者択一で選ばされるならどちらを選ぶか」の質問に対し、24年の調査で中国が初めてアメリカを上回った結果を発表しました。一昨年の23年に中国を選ぶのは38.9%、アメリカを選ぶのは61%以上。ところが去年、中国を選んだのは50.5%、初めてアメリカを超えました。
これは、どうしても二者択一なら、アメリカのやり方に対して、今の中国への信頼度、期待度が高まったことが表明されています。それはまさに、インフラの整備という実態の進展と効果を見ての反応なのでしょう。
上述のことから、改めて中国ラオス鉄道の三つのインパクトを考えたいと思います。
〇中国ラオス鉄道は「宣言書」の役割を果たしています。この宣言書で、「一帯一路」というのは一国の利益ではなく、共同富裕を目指すものと、各国がいよいよ理解し始めました。
〇中国ラオス鉄道は「宣伝隊」の役割を果たしています。中国ラオス鉄道の「共同建設」のプロセスを見て、より多くの国々が「一帯一路」の意義を理解し加盟してきました。
〇中国ラオス鉄道は「種まき機」の役割を果たしています。中国ラオス鉄道の成功により、ASEANなどでは複数の建設プロジェクトが決断され、着工するようになり、東南アジア全体のインフラ整備に火がついたわけです。
ここで、改めて「一帯一路」の真髄と可能性を考えたいと思います。まず、「一帯一路」というのは決して中国だけで押し付けて、中国だけの利益を考えるものではないです。最初からそれぞれの国の国家発展戦略とのマッチングということが重要視されています。つまり、相互の共通利益がベースになっているのです。
第二に、グローバルサウスの国々は多くの資源を持っているが、インフラがないと発展できないのです。インフラの整備によって、こうした国々が更なる発展の土台を得ました。まさに「授人以魚 不如授人以漁(人に魚をやるより漁の仕方を伝える)」ということです。
そして、第三に、「一帯一路」は、コネクティビティ重視であるため、東アジア地域全体のインフラの連結のネットワークを通じて、共に発展する、つまり一部の国だけの発展ではなく、一緒に発展していくという共同富裕の夢ということもこれで見えてきたと思います。
最後になりますが、「一帯一路」の共同建設を積み重ねていく先に、何が見えてくるかを一緒に考えたいです。トランプ政権2.0の登場とその一連の政策は、経済貿易の国際ルールを破壊し、中小国家の発展の権利を奪い、世界にとって災難そのものです。それに対して我々は、地域全体の平和と安定、各国の発展の権利をどう守っていくかという共通の課題が突きつけられていると言えます。かつて「東アジア経済圏」「東アジア共同体」などが提起されましたが、今こそ、「地域運命共同体」の意識を共有していくことが求められています。「一帯一路」によって、いろいろなインフラを通じて、真の地域運命共同体の意識を共有する土台が徐々にできたと思います。
「一帯一路」構想が打ち出された翌2014年、中国の習近平主席は「周辺運命共同体の構築」を提唱しました。前者の行き先が後者にたどり着くという両者の関連性が早くも意識されました。ちょうど今年の4月に、北京では周辺諸国との関係に関する政策会議(周辺政策会議)が開かれ、「周辺運命共同体の構築」が改めて提起されました。
そして直後に、習近平主席はASEAN三カ国を訪問しました。外交部報道官は、「近隣諸国は中国外交の最優先事項であり、共に未来を築く良き隣人、良き友人、良きパートナーであるべきだ」と語りました。
「一帯一路」の進展と「百年未曽有の大変局」を迎えた昨今の世界情勢を背景に、今こそ、日本、朝鮮半島、東南アジア、中国などで、この地域の運命共同体という未来像を、もっと語り合い、そしてその実現を目指して努力していくべきではないかと私は思います。時間の関係で、私の話は、これで終わらせていただきます。ありがとうございました。