中国のAI躍進と国際協力――世界人工知能大会を読み解く

2026-07-23 14:39:00

文=科学ジャーナリスト 倉澤治雄 

21世紀前半は「パラダイムシフト」の時代である。ホモ・サピエンスが今日まで生き延びた要因は「二足歩行」と「火の使用」、それに言語による「コミュニケーション」と言われているが、その言語も今や人工知能(AI)が紡ぎだすようになった。どんな問題もたちどころに解いてしまう「量子コンピュータ」や絶対に破られない「量子通信」、それに「地上の太陽」と呼ばれる「核融合発電」の実用化が目前に迫り、生命科学、材料科学、宇宙科学でも次々とブレークスルーが達成されている。 

中でもAIは人間社会の在り方に最も大きな変革をもたらす技術として注目されている。 

AI新時代を導く四つの提案 

7月17日から20日に上海で開催された2026年世界人工知能大会(WAIC)で中国の習近平国家主席は、AIが産業革命を引き起こした蒸気機関や電気、グローバル化を促したインターネットに次ぐ技術革命であると語ったうえで、「機械が思考を始めた時、私たちはどのように機械とかかわるべきでしょうか」と問いかけた。習主席はまた「人間中心主義と積極的な価値観の原則を堅持」することの重要性とともに、「公正かつ公平なグローバルAIガバナンスシステムの構築に向けて協力すべきだ」と訴えた。 

習主席が示した四つの提案をキーワードでまとめると、まずは「開放性(オープンソース)」と「相互利益」である。中国が重視するAIの産業応用では、オープンソースによる知の集約と、成果の正当な分配が必要との主張である。 

二つ目は「リスク認識」と「安全性」である。悪意あるAIの利用が人類を破滅に導く可能性は、欧米でも盛んに議論されている。国家安全保障観から見ると、中国にとっても極めて重要なテーマであろう。 

三点目は「共通の価値観」と「多様性」である。AIが人間の思考の多様性を失わせる可能性や偏見を助長する可能性は以前から指摘されている。いわば使う側のリテラシーの問題提起である。 

四つ目は「グローバル・ガバナンス」である。持てる国と持たざる国の「AIデバイド」を回避することは極めて重要である。産業応用分野だけではない。安全保障分野でのAI利用は、時として「核兵器の出現」にも擬せられるほど重要な問題なのである。 

中国のAI躍進 

こうした提案が示された背景には、AI分野での中国の躍進が挙げられる。米国による半導体輸出規制という地政学的ハンディの中、オープンソースの「ディープシーク」が米国のGPT、LLAMAなどと並ぶ性能を実現したことは記憶に新しい。WAICに合わせたかのように発表された中国のAI企業「月之暗面(Moonshot AI)」の「Kimi K3」やアリババの次世代モデル「Qwen3・8」は米アンソロピックの「Claude Fable」やオープンAIの「GPT5・6」に迫るほどの性能を実現したと伝えられる。 

AIを支える高性能半導体の国産化にめどがついたことも背景にある。5ナノメートル以下の半導体製造に必要な極端紫外線(EUV)露光装置はオランダのASML社が独占しているが、中国科学院はリバース・エンジニアリングの手法で試作機を完成させたと伝えられる。またファーウェイ(華為技術)は今年5月、31年から1・4ナノ相当の半導体の生産を開始すると発表した。同社の推論向けNPU「昇騰(Ascend)950」シリーズはNVIDIAのGPU「H100」「H200」を上回り、最高性能を誇る「Blackwell」に迫るといわれる。米国ワシントンの科学技術系シンクタンク「情報技術・イノベーション財団(ITIF)」は25年10月、「半導体輸出規制はファーウェイを助け、米国企業に打撃を与えた」との報告書を公表した。 

AIの発展を考えるうえで見逃せないのが電力の問題である。大規模なAIデータセンターは原発1基分の発電設備が必要と言われるが、イラン情勢で明らかになった通り、化石燃料は常に地政学的リスクに晒される。電力供給が破綻すればAIは使えない。中国は近年、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電など再生可能エネルギーへのシフトを加速しており、25年には再生可能エネルギーが火力発電を上回った。 

米国への直接的な言及はなかったが、科学技術覇権をめぐる米中対立が続くなか、今回の演説は、35年の「科学技術強国」実現に向けた中国の自信の表れと見ることができる。 

WAICを起点に広がる国際協力 

WAIC開催前日の16日には、中国主導で設立された世界人工知能協力機構(WAICO)の調印式が行われ、ロシア、ブラジルはじめアジア、アフリカ諸国29か国が創設メンバーとして署名した。本部は上海におかれる。上海はAI研究の中心地としての使命を担うことになる。 

WAICにはカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領、カンボジアのフン・マネット首相、アントニオ・グテーレス国連事務総長はじめ、100以上の国・国際機関から政府要人、研究者、企業経営者らが参加した。ハイレベル会議では「人工知能のグローバル・ガバナンスに関する声明」が発表された。注目すべきは中国が進める「AI+」をモデルとして、科学、教育、産業、農業、医療、運輸、気候、環境、行政など「あらゆる産業分野と家庭への人工知能の応用促進」が謳われている点である。 

また、演説の最後で、新興国、途上国などのいわゆるグローバル・サウス向けの提案を行った。途上国向けには今後5年間で5000件のAI研修機会を提供することが発表された。さらに、東南アジア諸国連合(ASEAN)、アラブ連盟、アフリカ連合、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)、上海協力機構(SCO)、BRICS諸国向けに国際AI協力センターを設立すると公表した。 

加えて、「媽祖インテリジェント気象早期警報システム(MAZU)」の提供を約束した。「MAZU」は中国気象局(CMA)が開発した気象災害早期警戒システムで、気象衛星「風雲」、レーダーによる高精度地上モニタリング、それに中国が開発した「雨師」などの気象特化型AIモデルからなる。 

日本への直接的な言及はなかったが、気象モデルでは日本も理化学研究所などが中心となって超高精度AI気象予測モデルの構築を行っている。また気象衛星「ひまわり」のデータをアジア太平洋諸国向けにリアルタイムで提供している。 

防災や環境問題は世界にとって最重要課題の一つである。日中関係はじめ、国際環境が厳しい時代ではあるが、全地球的課題には協力して取り組むべきであると筆者は考える。 

人民中国インターネット版


 

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