植野友和=文
風のように疾走するロボットたち
マラソンという競技は、人間の限界に挑むスポーツだと思っていた。しかし先日、北京経済技術開発区(亦荘)で取材したハーフマラソン大会は、そんな筆者のイメージを大きく覆すものだった。なぜなら、そこを走っていたのは人間だけではなかったからだ。ロボットたちも自らの限界に挑戦する、人間とロボットが共に走るハーフマラソンだったのである。
スタート地点では、人間のランナーが一斉に走り出すのとは対照的に、二足歩行の人型ロボットたちは1台1台少しずつ時間をずらしてスタートしていく。先頭を切ったロボットのランナーは、とてつもないスピード、全くペースが落ちない走りで、人間のランナーを一気に引き離した。センサーで周囲を認識し、自分で判断しながら21㌔先のゴールを目指して疾走する。まるでSF映画のような光景だが、この大会が行われているのは現実世界の中。もっと言えば北京市内の公道上であり、路傍には物珍しさやランナーたちの応援で多くの市民が集まっている。
ゴール地点には、まずロボットランナーたちが姿を現し、それから人間のランナーが続々とゴールイン。もっとも、人間のマラソン同様、ロボットたちにも競技途中でアクシデントが発生するケースがあり、中には転倒しながら立ち上がるロボットや、片腕が外れたまま最後まで走り続けるロボットまでいた。その姿を見ていると、機械であるはずなのに、思わず「頑張れ」と応援したくなってしまう。
今回の大会で特に驚かされたのは、この1年間の中国におけるロボット技術の進歩だ。昨年の大会では、多くのロボットが人間による遠隔操作で走っていたが、今回は大半のロボットが搭載されたセンサーやカメラで自ら周囲の環境を認識し、自律走行したというのである。

さらに面白かったのが、ロボットならではの「補給」だ。人間のランナーが給水所で水を取る一方、ロボットたちはコース途中で停止し、スタッフがバッテリー交換を行う。マラソン大会なのに、まるでF1のピットインを見るような光景である。ちなみに今回優勝したのは「斉天大聖チーム」で、タイムは50分26秒という人間の世界記録を上回る驚異的な記録だった。
人とロボットが調和する社会へ
この大会は単なるパフォーマンスではなく、実社会に近い環境でロボットを走行させることで、さまざまな状況への対応能力を検証するという重要な目的がある。道には坂道もあれば曲がり角もあり、時には人や障害物が突然現れることもある。そのような環境下でロボットがどのように判断し、どう行動するのか。実際に走らせることで初めて見えてくる課題も多いのだという。
大学や企業、研究機関など多様なチームが参加し、技術を競い合うことによって、中国のロボット産業全体の発展にもつながっている。京東サービス・ロボットメンテナンスエンジニアの金磊氏は、現在の中国ロボット産業について次のように語る。
「昨年は出場したロボットの数もそれほど多くありませんでしたが、今年は300台以上に増えました。また、中国全体のロボット産業の発展を反映するかのように、性能の向上スピードも非常に速くなっています。現在、中国では工場の点検や危険物処理など、特殊な現場ですでにロボットの活用が進んでいますが、現時点では四足型や車輪型が中心です。一方、人型ロボットは人間に近い動作ができるため、活用の可能性はさらに大きい。その分、開発難度も最も高いと言えます。このような大会が中国のロボット産業の発展に与える影響はとても大きいと思います」
そして今回、筆者が最も印象的だったのは、人々がロボットを見つめるまなざしだった。沿道では多くの観客が歓声を送り、転倒したロボットが立ち上がると拍手が起きる。人々は単に「機械」を見ているのではなく、親しみを持ってロボットを見守っていたように感じた。考えてみれば、今後ロボットは私たちの暮らしの中にますます入り込んでいくはずだ。その時に重要なのは、技術の進歩だけではなく、人々がロボットという存在を自然に受け入れられるかどうかではなかろうか。
筆者はこれまで何度もロボット関連の取材をしてきたが、取材するたびにロボットの進化を感じてきた。そして今回ついに、21㌔を走り切るロボットをこの目で見た。人とロボットが同じコースを走り、同じゴールを目指す。その光景の中に、中国が描く未来社会の一端を確かに見たような気がした。
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