電話が来た

2019-10-11 16:10:29

彭梅華=

砂威=イラスト

 

 「池のほとりのガジュマルの木の上で、セミが口々に夏を叫んでいる……」。美しい『童年』のメロディーが3回繰り返され、文聡は携帯の画面に3回表示された電話が全て同じ番号であることを確認したが、そのボタンを押せばやけどをしてしまうかのように、電話を受けようとはしなかった。それは知らない番号からのものだった。

  今月はどんないい月回りなのかは知らないが、宴席を設ける人が山のようにいた。文聡はこうしたよく知っている人あるいはよく知らない人からの電話を受けたために、すでに十数枚の100元札が他人のご祝儀リスト上でさまざまな金額に化けてしまっている。彼は単にあいさつを交わすだけの間柄の人がどこから自分の電話番号を探し出してくるのか本当に分からなかった。彼は突然鳴り出す呼び出し音、特に知らない人からの電話を恐れるようになっていた。

  本来の文聡は友情や感情をとても重んじる人だった。大学を卒業し、社会に出たばかりの頃、彼はとても人付き合いが好きであり、「友人は多ければ多いほど良い」と思っていた。文聡は100人近い同僚とうまく付き合っていただけでなく、政界、ビジネス界、産業界、教育界、文芸界の多くの人とも交流があり、県内の大きな機関から小さな機関まで至るところに文聡の知人がいるくらいだった。

  文聡がひそかに自分のコミュニケーション能力に感心していた時、悩みも出てきた。友達や同僚が増えれば増えるほど、彼を宴席に呼ぶ誘いが増え、結婚して子どもが生まれただの、嫁をもらう、娘を嫁がせるだの、50歳、60歳、70歳の誕生日のお祝いだの、引っ越し祝いだの、試験に合格しただの、時にはお昼に三つの場所をはしごしなければならないほどだった。

  彼はしょせん仕事を始めてまだ数年で、月給はわずか700〜800元であり、相次ぐ宴席の出費は次第に彼に重くのしかかってくるようになった。しかし誘われたら、行かないわけにはいかない。中国人は何といってもメンツを重んじるのだ。彼は仕方なくたびたび人にお金を借りて虚勢を張った。彼はいつも痩せ細っている財布を「枯れ皮」と自嘲し、ポケットに金がない男はぶざまに見え、結婚相手を探そうにもまるで競争力がなかった。彼の「才」を褒めたたえる女性も彼が「財」がないことを不満に思って離れていき、彼は何とも言い難い思いでいっぱいになった。

  それが続くと、文聡は宴席恐怖症となり、携帯が鳴るたびに胸が恐怖でドキドキした。

  『童年』はまだ鳴っている。いくらうっとうしいとはいえ、電源を切ることは絶対にできない。文聡は相手と直接話さない限り、他人が宴席に誘ってきたとしても、言い訳はできると考えていた。最近彼はこの方法で確かに自分のお金を守ってきた。

  翌日、その番号がまた彼の携帯に表示されたが、文聡はやはり無視した。

  2カ月後、文聡は会議のために市に出掛け、大学の同級生だった雲凱に出くわした。数年会わないうちに、雲凱は市の重要な部門の要職に就いていた。彼は文聡を見るとすぐ力を込めて彼の肩を叩き、責めるように言った。「文聡、何度も電話したのに、どうして出なかったんだ?」「いつ電話くれたって? 君の番号は知らないわけじゃないし」と文聡は言い訳した。「番号を変えたんだ。今は139××××××××だよ。2カ月前、うちの部署で文章がうまく口が達者で協調性に優れた事務室主任が急に必要となったんで、僕は君が高名な『才子』だと売り込んだんだ。君は若くて結婚もしていないし、最もふさわしい人間だった。ああ、あんな良いチャンスを他に持って行かれるなんて……」

  文聡はあの何度も来た電話を思い出して、一瞬にして全身が凍りついた。

 

翻訳にあたって

  宴会や結婚式が続いてお金がなくなるというこの話は、日本人にとっても身につまされる話に違いないが、中国は日本よりもさらに人間関係が重視される社会であるため、こういったストーリーも極めて共感を持って読まれるに違いない。

 

 「金榜(金榜に名が出る)」の「金榜」は、科挙試験の殿試において、合格者名を書き連ねた掲示板のことを指すが、転じて試験に合格するという意味も持つようになった。「肿脸充胖子」は直訳すると、「腫れ上がるほどに顔を打って太った人になりすます」という意味であり、日本語では「虚勢を張る」「やせ我慢をする」「空元気を出す」に相当する。      (福井ゆり子)

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