特賞

2020-12-22 11:12:31


崔志勇=文

鄒源=イラスト

年末、支社が開く忘年会に理事長が招待された。

会場へ向かう途中、本社に突然処理しなければならない要件が起こり、理事長は車をUターンさせて本社へ戻った。

要件を処理し終わった時には、もう夜の8時を過ぎていた。

「忘年会ももうそろそろお開きだろう」と理事長は淡々と言った。「直接家に帰るとするか」

帰宅途中、忘年会が開かれているホテルの前を通った。運転手が「何でしたらちょっと入って様子を見て、あいさつだけでもしますか? 支社への激励にもなりますし」と言うと、理事長はうなずいた。

理事長の突然の来訪に、会場の雰囲気は一気に盛り上がった。司会者が「理事長に今晩最大の賞、特賞を選出していただきます」と情熱を込めて大声で宣告した。

場は盛り上がり、誰もが幸運を引き当てるのは自分ではないかと期待し、希望に満ちた笑みを顔に浮かべた。

理事長はくじの箱まで重々しく歩み寄り、手を伸ばして、番号の記された入場券を1枚引き抜き、司会者に渡した。司会者は入場券を手に、「今晩の特賞は――」と言ってわざわざ言葉を切り、会場の全員を見渡したものだから、みんなドキドキして心臓が飛び出しそうになった。

88番です。88番!」司会者は繰り返し叫び、この番号の特別感、並外れた縁起の良さを訴え掛けた。

場は再び盛り上がった。顔立ちの整った、まだ学生の雰囲気を残した若者が、興奮して舞台へと向かった。

司会者は彼に、当選の感想を述べた後に何か芸を披露してくれと言った。彼は興奮のあまり胸を上下させながら、「わ、私はとっても感激しています。歌は歌いません。お酒を飲みましょう!」と言った。若者は酒杯を持って大股で舞台の中央に歩み寄り、上を向くなり、ゴクゴクと酒を飲み干し、「皆さん、ありがとうございます」と何度も繰り返し、とても興奮した様子だった。

この時、司会者が当選者は舞台裏に賞品を取りに来るように言った。

賞品受け渡し所のそばに座っていた理事長の運転手は、係員が若者に参加者全員に用意している残念賞のぬいぐるみを渡すのを見ていた。

若者はいぶかしげに、「1等賞は55インチの大型液晶テレビでしょ? 私は特賞じゃないんですか? どうしてこれなんですか?」と聞いた。係員は顔を上げて若者を見ると、「これしかないんだよ。私のを君にあげるんだ。本当ならば会はもうお開きになるはずだったのに、理事長が突然来たのでね、理事長のメンツのためと、気分を盛り上げるために特賞の抽選を臨時に追加したんだ。このことは自分の胸の中にしまっておいて、他の人に言ってはいけないよ」と真面目な顔をして言った。

言い終えると、係員は手を伸ばして、若者の肩を軽くたたいた。

若者はその「特賞」を持って、不満そうに去っていった。

係員は若者が去るのを見送っていたが、理事長の運転手が彼らのやりとりの一部始終を見ていたことに突然気付くと、気まずそうに笑いながら、「いや、本当に申し訳ない。準備不足でね。どうか理事長には言わないでいただきたい」と言った。

そして、彼は手品のようにベルベットの袋の中から2等賞の賞品――「最新型のスマホ」を取り出して、運転手に渡した。

 

翻訳にあたって

「乾杯」とはその字の通り、中国では「杯を乾す」こと。つまり最後の一滴まで飲み干すことで、中国人はしばしば飲み終わった後、杯を逆さにして、一滴も残っていないことをアピールする。日本では、乾杯はスタート時にだけ行われるものだが、中国の宴会では途中何回も「乾杯」の声が掛かるため、何度も杯を空にする羽目になる。飲むお酒はたいていが度数の高い蒸留酒「白酒」であり、白酒を飲みつけない日本人はたちまち酩酊状態に陥る。この乾杯攻撃への対策がうまくできるようになると、中国社会になじんだと言えるのかもしれない。なお、中国の忘年会はこの文のように、ホテルなどの大会場を借りて豪華景品付きで行われることが多かったが、最近は「ぜいたく禁止」の観点から、派手な宴会は慎まれる傾向にある。

(福井ゆり子)

 
12下一页
関連文章