中国式現代化のカギを握る「共同富裕」の現状と将来
名古屋外国語大学名誉教授、日中関係学会副会長兼東海日中関係学会会長 川村範行
中国式現代化は巨大な人口規模の現代化であり、経済大国中国の新たな挑戦である。「中国式現代化は14億人の食べられる問題を解決することである」 「共同富裕は社会主義の本質的な要求であり、中国式現代化の重要な特徴である。人民全体の共同富裕である」――習近平国家主席が2021年8月の中央財経委員会などで、このように強調している。すなわち、中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)や中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で党中央と中国政府が取り組む中国式現代化のカギを握るのは「共同富裕」政策と言える。
私は今年8月25日から31日まで、日本中部学術訪中団の団長として上海市、浙江省を訪問し、座談交流や視察調査を行った。特に日本人として初めて中国共産党浙江省委員会党校(浙江行政学院。以下、省党校)を訪問し、校長・幹部各位との間で、重要政策「共同富裕」についてレクチャーと質疑応答の機会を得た。併せて、質の高い発展による共同富裕の国家モデル地域に指定された浙江省を視察し、実態を詳しく把握する事が出来た。
訪中団は東海日中関係学会を中心とする学者・研究者・エコノミストなど6名で構成。コロナで途絶えた日中両国間の学術交流を再開し、日中関係の課題について対面による意見交換を通じて相互交流を促進することを主旨とする。中国駐名古屋総領事館の支持のもと、2023年に続く訪中活動の実現である。
中国が重視する共同富裕政策とは何か
中国政府は2021年に浙江省を質の高い発展による共同富裕モデル地域に指定し、中国式現代化の実践を浙江省で顕著に行うことを指示した。
1.共同富裕の理念
中国伝統の「人情社会」を現代に再現する
マルクス主義理論の政策化
中国の特色ある社会主義建設の実践過程での具体的課題への対応
経済社会発展の目標であり手段である。固定概念ではなく動態概念である
2.共同富裕の目標
地域格差の縮小
都市と農村の格差縮小
収入格差の縮小
医療、教育、公共交通、インフラ整備、緑化など公共サービスの促進と質の高い発展による均等化
道徳、倫理など精神文明の建設
コミュニティー、村、鎮など狭い区域での共同富裕の実現
省党校の政策担当者は「1950年代には人民公社や集団化など強制的に富裕化させようとしたが大きなミスを犯した。柔軟性のあるやり方、市場化のやり方で促進する」と、訪中団にコメントした。
3.共同富裕達成の時期
①全国:2035年までに上記6つの目標を実質的に整える
今世紀中葉までに基本的に実現する
②浙江省:2025年までに実質的進展、2035年までに基本的に実現する
4.社会格差に対する考え方
①社会格差は認める。低収入層を引き上げて収入別人口が、真ん中が大きくて両端が小さい「ラグビー型社会」を目指す
②2025年には、浙江省では年間収入10万~50万元の層を80%にする
5.毛沢東や鄧小平の目指した共同富裕との違い
共同富裕は、マルクス主義の政策化であり、毛沢東や鄧小平が貫いてきた考え方である。改革開放の初期は経済発展をメーンに取り組んで来たが、その間に中国の富裕層が実現、世界ランクの金持ちが出た。世界第2位の経済大国となり、収入格差や財産格差が益々拡大している。
省党校の政策担当者は「経済発展の基礎の上に共同富裕を築く」と説明した。
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