日本人識者による報告感想

2024-04-17 14:51:00

技術や質をてこに次の成長ステージへ 

丸紅(中国)有限公司経済研究チーム総監 鈴木貴元=文 

政府活動報告によると、今年の中国経済成長見通しは昨年と同じプラス5%前後。新型コロナ下の反動増やEV再生可能エネルギー関連の特需が共に薄まる平時において、プラス5%前後の成長を目指す、意欲的なものと思われる。経済の課題として、有効需要の不足、一部産業の生産能力過剰、期待の悪化、各種リスクの存在などが指摘され、幅広い産業連関や高い資産効果を持つ不動産が長期販売低迷に直面する中で、目標達成には困難が多いと見られている。海外からは、中国経済の減速傾向に対して財政金融政策の呼び水をもっと発動して短期的な景気を盛り上げないと、景気はますます減速してしまうのではないかとの声もよく聞かれる。 

一方、政府活動報告では昨年の経済に関して、経済政策は科学技術イノベーション、先進的製造業、小企業零細企業、グリーンの発展を促し、消費促進策は、自動車、内装、電子製品、観光などの購入を促し、政府投資政策は、エネルギー、水利などの投資を促したなど、選別的で効率的な奨励が奏功したなどと評価した。工業統計を見ると、中国の基幹産業である自動車と電気機械は昨年それぞれ前年比130%成長と129%成長。一方、輸出産業の皮革やアパレルはそれぞれ前年比マイナス84%とマイナス76%。単純平均成長率19%成長に対して標準偏差は88%と、景気は二極化していたとも言える。しかし、人民元がドルに連動して長期元高傾向をたどり、また人件費が10年で倍増を記録するような中、皮革やアパレルが中国の輸出産業として根強く存続したという状況から見れば、昨年の縮小は、起こるべきことが遅ればせながらやってきたということとも言える。中国経済は、巨大な市場と生産のスケールメリットによってほとんどの産業で国際的な競争力を獲得していたわけだが、今は新しい産業構造に向けて主役産業の本格的な入れ替わりの時期に入ってきているのかと思われる。 

新しい主役ということでは、昨年、新エネルギー車、太陽光発電設備、リチウムイオン電池が新しい輸出の御三家(中国語で「新三様」)として話題になった。政府活動報告では、世界トップレベルに達して一部のイノベーションの成果として、国産大型旅客機C919の初就航、国産大型クルーズ船の建造成功、航空エンジン、ガスタービン、第4世代原子炉などの研究開発の進展、人工知能や量子技術などでの先端的な成果などが挙げられた。これらが世界的な中国の新しい基幹産業になるのか、まだ結果は出ていない。中国政府も足元を懸念しているように、需要を大きく上回る生産能力の構築やそれによる激しい価格競争は、事業の自転車操業化により、付加価値の出にくい産業の創出につながる場合もある。ただし、こうした膨大な技術の成果は、国民生活水準の改善には確実につながる。中国の研究開発の成果は米国と二分しており、実証実験の素早さはすでに折り紙付きである。 

昨年より中国では「高質量発展」という質を重視する発展様式に続き、「新質生産力」という生産性の改善を促す先進的科学技術の振興が強調されている。ここでの重要性は「質」であり、数量的な発展では必ずしもない。企業経営の中では、売り上げの増加、株式を通した投資家の評価などが重要であり、「質」の重視に100%移ることは難しい。しかし、労働力減少、化石エネルギー削減などといった制約が強まる中で、労働の質、生活の質を高めることが持続的な経済社会の維持によりつながるのは、自明のことと言えないか。技術や質をてこに、次の成長ステージを模索する中国の挑戦を見守りたい。 

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