日本人識者による報告感想

2024-04-17 14:51:00

中国は「失われた10年」を回避できるか 

インフィニティ チーフエコノミスト 田代秀敏=文 

中国経済は改革開放以来で最も困難な局面にある。この状況を中国政府がどのように突破し中国経済を回復させようとしているのかを、今年の政府活動報告から知ることができる。 

日本は1990年代の前半に資産バブル崩壊で経済が低迷し、後半に米国による日本たたきで経済低迷が深刻化した。日本政府は国債を大量発行して、「ばらまき」と一時的な強い景気刺激策を繰り返したが、効果が乏しかった上に持続せず、日本企業は雇用、設備、債務の三つの過剰の削減に追い込まれた。 

その結果として、日本経済の「失われた10年」は繰り返されて「失われた20年」となり、さらに「失われた30年」となった。政府債務残高は日本のGDPの2倍以上に達し、1987年から88年に44%の水準であった潜在成長率は、2004年から19年連続で1%未満を推移した。最終的に日本政府は日本円の外国為替レートを円安方向に誘導し、1995年に人民元1元=日本円11円台であったのが、現在は人民元1元=日本円20円を超える円安となっている。 

今年の政府活動報告は、中国経済が日本経済の(てつ)を踏まないために、「ばらまき」と一時的な強い景気刺激策を明確に否定し、「質の高い発展の推進」を宣言している。医療を比喩に用いれば、カンフル剤注射ではなく体質改善を図るという苦難の道を選択しているが、中国経済の長期停滞を回避するためには他の選択肢はあり得ないだろう。 

「根本から言えば、質の高い発展の推進は改革に頼らなければならない」という政府活動報告の主張は的確である。日本では「ばらまき」と一時的な強い景気刺激策が繰り返されたことで、不採算の「ゾンビ企業」が保護され市場に留まってしまった。「ゾンビ企業」は生産性や収益性を高めるために改革をする必要がなかった。そのため日本ではIT技術の導入が、米国や欧州諸国だけでなく中国と比べても相対的に遅れを取った。コロナショックによって「ゾンビ企業」が意図せずして淘汰されてしまったことを奇貨として、「質の高い発展」の推進に役立てられるかどうかが、中国が「失われた10年」を回避できるかどうかを左右すると思われる。 

一方、「3年間続いたコロナショックを受け、経済の回復自体に多くの難題を抱え、長年の潜在的な問題がにわかに顕在化し」たとの政府活動報告の指摘も的確である。日本は「長年の潜在的な問題」を財政出動と円安とによって封印してしまったことで「失われた10年」を繰り返した。政府活動報告で財政赤字率の上限を3%と定め、償還期限が10年を超える超長期国債の発行上限を1兆元と定めたことは、実に苦しい決断であるのだろうが、日本の轍を踏まないために必須であると思われる。 

「新たな質の生産力」も政府活動報告の重要なキーワードであると思われる。イノベーションそのものを目的とするのではなく、イノベーションが生み出す「新たな質の生産力」を目的とすることも、日本の轍を踏まないために有効であると思われる。日本企業は技術を磨き上げることに熱心であったが、それを事業に生かすことには熱心でなかった。QRコードは日本の自動車部品メーカーであるデンソーが開発したものであるが、膨大な種類の自動車部品を生産現場で管理するためだけに用いられ、他の用途に用いられることはなかった。そのQRコードを中国企業が電子決済や電子認証に全面的に活用したことで「新たな質の生産力」が生まれた。中国で「新たな質の生産力」が目標となることで、既存の技術やイノベーションが「質の高い発展」に貢献されるだろうと思われる。 

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