中国農業の現状と未来

2023-05-26 16:09:00

「食は生命の源泉」中国は地球上の僅か七%の耕地を使って、世界の人口の二二%を養っているが、これは過去の歴史に照らして奇跡とも言えよう。 

とは言うものの、農業が中国国民経済で最も脆弱な部分であることに変わりはない。なぜなら、中国ではこのところ毎年千三百~四百万人の人口が増えており、一方農地は工場や住宅の建築、道路の拡張などでつぎつぎに潰され、更に水利事業の遅れや水害旱魃の被害で農業が傷つき、特に食糧の生産が厳しくなりつつある。

つい先頃開かれた中国経済会議で、改めて農業振興を国民経済の第一課題とする事が決まったので、食糧増産の方策、農業の現状と未来について、中国農業部の専門家に話を聞くと同時に、現在農業大県と言われる山東省の平度県を訪ねた。


便利な田植え機械(江南地方)
便利な田植え機械(江南地方)

政府に食糧を売り渡す湖南省益陽県の農民。同省は中国の穀倉地帯である。
政府に食糧を売り渡す湖南省益陽県の農民。同省は中国の穀倉地帯である。

 

対談

中国は二十一世紀に食糧危機を迎えるか

時 一九九五年十一月二十八日 

所 中華人民共和国農業部弁公庁会議室

人 農業部専門家 孫中華

 

 


中国の食糧問題を語る孫中華氏
中国の食糧問題を語る孫中華氏

一九九四年九月、米国ワールドウォッチング研究所のブラウン博士たちは、二〇三〇年に中国の人口は十六億人に達し、その時点で中国は六億四千万人分の食糧約三億八千万トンを輸入しなければならない。しかし一九九三年の世界食糧の事情から見て、このような膨大な食糧を輸入するのは難しいという研究発表をした。そこでブラウン博士たちの予言の信憑性、中国農業の現状と未来展望について、農業部(省)の権威孫中華氏に本誌記者が話を聞いた。 

 

 

ブラウン博士の予言は間違っている

―ブラウン氏たちの予言にはびっくりしました。もしある日中国で六億四千万人の食べるものがないと言ったら、世界中が動転しますね。

 新中国誕生の直前、当時のアメリカのアチソン国務長官が、中国は人口に比べて、耕地面積が少ないから、将来必ずアメリカの食糧に依存する時が来ると断言しました。しかしこの四十七年間で、たしかに耕地面積は一人あたり一五アールから七·三アールに減ったものの、一人あたりの食糧は二〇九キロから三八〇キロまで増えているのです。

―そうすると、ブラウン氏たちの予言も当てになりませんね。

 いや、ブラウン氏は有名な経済学者で、彼らの研究報告は常に予見的ですから、世界的に重視されています。一昨年の夏、ブラウン先生が中国を訪問されたとき、農業部の専門家グループが、先生とは違う考えを提出したのです。ブラウン先生は自分の予言を撤回はしませんでしたが、中国専門家の意見もよく考えてみる必要はあると言っていました。彼らの予言は一種の警告として、悪いことではないと思います。

―ブラウン氏の予言の第一の根拠は二〇三〇年に中国の人口が十六億人になるということですね。

 これはわが国の推定とほぼ同じです。しかし、中国の人口は十六億人が頂点で、そこから減少に転ずるはずです。一部の人口成熟国ではすでにこのような傾向が出てますが、中国も人口構造の問題があるので二〇三〇年の難関を突破できれば、好転の期待がもてるのです。

―ブラウン氏はもう一つ、中国の耕地面積が年々減少し、食糧の総生産が五分の一減少すると見ている訳ですが……。

 予言のまちがいは正しくそこにあるのです。彼らは中国の耕地の減少だけを見ていて、一方で増加があることを見落しているのです。確かに彼らの予言通り、一九九〇年以来わが国では毎年耕地が約六〇万ヘクタールずつ減っていますが、同時に新しい耕地が四七万ヘクタールずつ増えているのです。また『土地法』が施行されて以来、耕地を保護するのが基本的な国策の一つになり、今後ますます規制が厳しくなって行くと思われます。その上、わが国には開墾可能な荒野がまだ三三〇〇万ヘクタールあるので、転用と新増で耕地はほぼ均衡する可能性が強い。わが国の耕地面積は現在約一億二千万ヘクタールで、今後一部転用されても、単位面積産出量が伸びれば、自給はできる見込みです。現在生産性の高い一部地区では一ムー(六·七アール)の生産量がすでに千キロを越えたところもあるのですから、一ムーあたり三百キロ以下という低生産地六千万ヘクタールに手を入れれば、一ムーあたり百キロ増としても、大増収が期待できるのです。今後農業への投資も増えて、生産性も上がるはずです。


中華人民共和国の土地資源分布図
中華人民共和国の土地資源分布図

―先進国の例を見ると生活水準が高くなると食糧の直接消費は少なくなる傾向が強い。例えば日本人一人あたりの年間食糧消費量は百二十八キロしかないそうですね。

 それは食糧以外の副食品が豊富なためですが、中国は副食品生産の面でも有望です。国内に広大な草原、山林、沼沢があり、更に豊かな海洋に面しているので牧畜業、水産業を発展させ肉類、魚類、海藻類食品の増産が見込めます。例えば、現在二億八千万ヘクタールの草原があるが、牧畜業の実績は先進国の半分にも及ばない。かなりの発展力が潜在しています。

―ある専門家は二〇三〇年には中国の食糧総生産が八億トンに達し、十八億人を養うことができるとか。

 それほど楽観は出来ませんが、適切な対策をとれば食料の自給はまず心配ありません。

中国農業にともる黄信号

―農業の現状はどうでしょうか?

 改革開放以来、中国の農業は大きな発展を遂げ、現在食糧、綿花、菜種、製糖原料、食肉、卵類、水産物、果物、野菜、きのこ類、ジュートなどの収穫量は世界一です。国連の調査によると、一九八〇年から九二年までの世界全体の農業の伸びは平均で一·二七六倍ですが、同期の中国は一·八八三倍になっており、一九七八年から八四年までの六年間に、食糧の総収穫量も三億トンから四億トンに増えました。いま中国は地球全体の七%の土地で世界人口の二二%を養っているのです。

―昨年の収穫は?

 豊年でした。食糧の作付面積は一昨年より四十六万ヘクタール増の一億一千万ヘクタールに達し、総収穫量も一千万トン増の四億五千万トンでした。その他あらゆる農業分野、水産物まで含めて好調でした。

―最近、私は山東省のいくつかの県に取材に行きましたが、科学技術が農業生産に大きな役割を果たしているのを実感しました。

 科学技術の応用は、先進国に比べればまだまだですが、それでも大きな成果を上げています。例えば種子の改良ですが、現在の主要品種はすでに四、五回品種改良をしています。これが一回の改良で大体一〇~二〇%の増産につながっているのです。とくに雑交配の稲が早くも世界の先進的レベルに達し、これだけで、もみ米二億四千万トンの増産につながりました。現在農業科学研究体制は理論から実地まできっちり整備され、専門スタッフが十二万人に達しました。さらに農村で農業科学技術を推進する人が百万人を越え、農民の科学技術協会も一三万八千を数えます。

―マルチフィルムを使った栽培とビニールハウスの増産効果が大きいので白色革命と呼ばれているそうですね。

 これは日本に学んだものです。中国はこの技術をすでに全国に広めましたが、一般に増産幅が二〇~三〇%に達しています。この十数年で国外から多くの技術を導入しましたが、マルチフィルム栽培、節水灌漑、機械化養鶏、いけす養魚、穀物と果物の優良品種などが全国で採用されています。

―農業の心配事はいったい何でしょうか?

 食糧増産の伸びが鈍って来たことです。中国ではまだ七〇〇〇万人が貧困状態にあり、また毎年一五〇〇万人の人口増に対応しなければなりません。しかし、収穫量は連続して五〇〇〇万トン増の階段を七つ登ってから、進まなくなりました。九〇年から九五までの増産率は年平均〇·六%で、九四年は九三年より一〇〇〇万トン減收になるという憂慮すべき状態でした。

―原因は何ですか?

 主な原因はこの数年農業とくに食糧生産の收益が悪いため、作付面積が減ったことです。一九九四年の全国の食糧作付面積は九一年より八六万ヘクタール減少しました。また沿海の経済発達地区では開発ブームによる土地流失が続いています。東南沿海地区はもともと非常に生産性の高い商品化食糧基地で、かつては食糧増産量の五七·四%がここで達成されたのです。しかし、この数年、土地の転用過多で自分たちの食糧自給もできなくなりました。

―この数年災害の影響も大きいと思いますがどうですか。


発展する食鳥(鶏、鴨、鵞鳥)の養殖(広東省南海県大瀝鎮)
発展する食鳥(鶏、鴨、鵞鳥)の養殖(広東省南海県大瀝鎮)

 自然災害はある程度避けられませんが、農業に対する投資不足も否定できません。一部の水利施設は更新か修理が必要なのにそのまま運行して、洪水や旱ばつの被害を大きくしています。一九九五年のわが国の総被災面積は四七〇〇万ヘクタールでしたが、うち二五〇〇万ヘクタールが大きな被害を受けました。

農業振興が最大課題

―政府は農業に対してどのような新施策を取るつもりですか?

 政府は農業振興を国民経済発展の最重要課題に位置づけました。

まず農業発展政策を適切にコントロールし、農業の收益性を上げて農民の積極性を引き出すことに努めました。例えば一昨年から食糧の定量購入価格をかなり大幅に引き上げたのもその一つです。

次は耕地の無断転用の規制強化です。基本農田保護区の制定によって、八〇%以上の耕地が保護され、さらに中央と地方政府が農業への投資を増やし、農業の基盤施設の改善に努力します。

また科学技術教育による農業振興戦略も実施します。更に中国北部の黒竜江省、内蒙古、西部の新疆、南部の雲南省と沿海部の干潟などに残る大面積の開墾適地を開発すれば毎年三三万ヘクタールの耕地が増えるのです。また多毛作率も引き上げたい。もし現在の一·五六から今世紀末までに一·五九まで持って行けるなら、六六万ヘクタールの高収量耕地を増やしたのに等しくなります。

―自然災害との戦いも大切でしょう?

 そうです。一九九五年九月、国務院は農業水利基本建設会議を開き、農閑期に大事業を実施することを決めました。

重点は大型河川の治水工事と中小型の農業用水利施設の建設で、灌漑農田面積を広げ、洪水防止能力を高め、干害と水害による損失の減少を期待しています。

―農業発展計画を見ると、これからしばらくは、多数の農業の新技術を導入するようですが、これについてお話し下さい。

 わが国の農業は随分進歩しましたが、世界の国々と比較するとまだ大差があります。例えば一ムーあたりの稲の収穫量はエジプトが五〇一キロ、アメリカは四二七キロ、日本は四一八キロですが、中国は三九〇キロです。小麦はイギリスが四〇八キロ、フランス四三二キロ、エジプト三五〇キロなのにわが国は二三五キロに過ぎません。

科学技術の活用実績も先進諸国の半分です。そこで、農業新技術の導入に力を入れることにしました。

―食糧の輸出入はどう考えていますか?

 中国は自給自足を原則にしているし、人口も多いので、食糧を外国に依存することはできません。しかし、我々も国際市場の調節機能は重視しています。


小麦の収穫(黒竜江省)
小麦の収穫(黒竜江省)

水稲の雑交配を指導する技術員(湖南省水稲雑交配研究センター)
水稲の雑交配を指導する技術員(湖南省水稲雑交配研究センター)

豊かになった農民たちの新住居
豊かになった農民たちの新住居

豊かさの象徴―自家用車(江蘇省華西村)
豊かさの象徴―自家用車(江蘇省華西村)

わが国は広いから、時には産地から長距離輸送するより輸入した方が安いことがあるし、またブレンドや備蓄用にある程度の輸入は必要です。と同時に国際市場の相場の成行次第では輸出もします。一九九三年は輸出が輸入を三〇〇万トン上回りました。

まあこういう状況ですから、中国の食糧輸入が世界の食糧危機を引き起こすと国際的に騒がれたとき、日本の農林水産省の研究機構が根拠のない話だと断言しました。

―お話をうかがって安心しました。どうもありがとうございました。

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