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小旅行の楽しみ

2023-11-30 18:38:00 【关闭】 【打印】

植野友和=文

「旅に出たい!」と思っても、大人はそう簡単に仕事を休めない。家庭持ちの人ならなおさら時間はないだろうし、遠出はお金だってそれなりにかかる。だが、都会に暮らす身としては、たまにはどこかに出掛けて気分転換をしたいもの。そこでオススメなのが週末を利用して行く小旅行である。 

筆者は先日、北京市郊外の農村を1泊2日で訪れた。のどかな場所でゆっくりとした時間を過ごし、都会の疲れを癒やしたい。それくらいの目的意識でぶらりと行ってきたのだが、思った以上にさまざまな発見があったため、今回のコラムではその経験を皆さまとシェアしたい。 

北京市内から車で出発し、西に向かって山道を走ること2時間程度。そこにはという400年以上の歴史を持つ集落がある。同村は北京市西部の門頭溝区斎堂鎮西北部にある峡谷の中ほどに位置し、谷底の小さな平地とその近くの山肌に人家が密集しており、その建築物の数々は一目見ただけでかなりの年代物であると分かる。自分が宿泊した民宿のオーナーの話によれば、ほとんどの建物は明代以降のものであり、華北で唯一、明代・清代様式の建築群がほぼ完全な形で保存されている村なのだという。 

実際、保護の取り組みは村民たちによって熱心に行われているようで、人々は古い四合院をレストランや民宿、はたまた住居として今も使用しつつ、修繕に際しては昔のままの容貌を保つよう、細心の注意が払われていた。石造りの家々の間に入り組む狭い路地を進んでいると、まるで数百年前にタイムスリップしたかのような気分になる。そのような趣を求めて同地を観光する方は多く、筆者は平日に訪れたにもかかわらず、村内には若者からお年寄りまでかなりの人がいた。それでも北京市内の名所に比べれば静かなもの。爨底下村には中国の観光地にありがちな大混雑もなく、ストレスフリーで静かに巡れる景勝地という印象を受けた。 

さて、村内をぐるりと巡って気付いたのは、村の名前にも含まれる「爨」の字をモチーフとしたオブジェや文化クリエーティブ製品、アートなどの数々である。そもそもこの字、中国の人々にとっても決して日常的に目にするものではないそうだが、火をおこす、かまどといった意味がある。かつて山西省から移民としてやってきて、厳寒期には凍り付くほど冷え込むこの地に村を開いた人々は、好んで「爨」の字を使ったという。また、周囲の山がかまどの足のように見え、村はかまどの底に当たるとして爨底下村との村名が生まれたそうである。いずれのエピソードも教えてくれたのは村民のおじいさん、おばあさんであり、突然訪れた自分のような外国人にも優しく接してくれた。同地は標高が650㍍以上あり、自分が訪れた9月下旬にはすでに冬の気配を感じるほどで、きっと寒さは厳しいに違いないのだろうが、人々の心からは温かいものを感じたのだった。 

昼間は観光客でにぎわうが、多くの人は日帰りのため、夜には村中がしんと静まる。北京の中心部ではまず味わうことのできない静寂である。シックな内装の民宿で一夜を過ごし、早朝には散歩をして、山地ならではの清涼な空気を味わう。つくづく思ったのは、自宅から車で2時間程度しか離れていない場所に、これほどの別世界があったのかという驚きだ。 

さて、以上は小旅行の感想だが、今回の訪問では他にもさまざまな気付きがあった。 

まず第一に、中国における国内旅行、とりわけ「微旅游」(マイクロツーリズム)がもたらす効果である。その理由としては新型コロナ感染症の収束以降も盛り上がりが続く国内旅行ブームに加えて、近場志向が強まっていることがある。だが、それは決してネガティブな側面だけではなく、人々にとっては自国の文化、もしくは地元の魅力を再発見することにつながるという大きなプラス面を生んでいる。 

また、都市住民が近くの農村を訪れることにより、さまざまな観光業が伸び、村民たちは就業や増収の機会を得ている。実際、爨底下村だけでなくこれまでに筆者が訪れた各地の村々では、農業だけに頼ることなく観光産業に力を入れ、貧困状態から脱却を果たしたと語る人々に数多く出会ってきた。この点において、中国の「農村振興」は着実に成果を上げていると言っていいだろう。 

第二に、自分が抱いていた中国の農村のイメージは、もはや過去のものになっていたという気付きである。昔、中国を旅していた頃、こちらの農村といえば道路がろくに整備されておらず、外国人が泊まれる宿もそうそうなく、村のトイレはのけぞるほど汚いことがしばしばあった。そういうところもまだあるにはあるだろうが、農村振興によって様相を新たにした中国の村落は、驚くほどに現代的である。爨底下村のように歴史的建築物を保存している村であっても、建物に一歩入ると実に快適かつ衛生的で、モダンですらある。自分が泊まった民宿などはオーナーの方が長年都会で観光業に従事し、村に戻った後にかつての経験をフルに生かして、至れり尽くせりの宿を運営していた。都会で暮らしていた人が生まれ故郷の村で起業をする現象はここだけでなく中国各地で起きており、今後も農村振興を進めていく上で大きな力となり続けるに違いない。 

ちなみに、行政区画上はこの爨底下村も北京市に含まれる。万里の長城や故宮、天壇などももちろん素晴らしいが、北京にはこのような密かな名所もあることを、多くの同胞諸兄にぜひ知っていただきたいと思う次第だ。 

北京市門頭溝区斎堂鎮で伝統工芸を体験する著者(左)(写真・郭然)

 

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