女媧の補天の神話息づく 故事と太極が交わる古都
断崖につながれた宮殿
邯鄲市中心部から北約100㌔、涉県の山間に、中国神話の女神・女媧を祭る「媧皇宮」がそびえ立つ(創建は前漢時代、現存の建築の多くは明・清時代に建てられたもの)。伝説によれば、この地こそが、女媧が人類を創造し、裂けた天を補修した場所とされる。神秘的な物語の舞台とあって、全国から多くの人々が訪れるが、山の麓に立った瞬間、誰もが目の前の光景に息をのむだろう。
遠くから見上げると、媧皇宮は標高822㍍の切り立った断崖にへばりつくように建っている。背後は断崖絶壁、左右は対称の岩壁で、その姿はまるで彫り込まれた巨大なレリーフのようだ。古代の人々は「神に近づくほど、神と交信しやすくなる」と信じており、寺院をできるだけ高い場所に建立しようとしたという。
参道を登ると、9㍍以上の高さを誇る女媧像が現れる。その表情は威厳に満ち、落ち着いた気品を漂わせている。腰には獅子の頭を模した装飾が施され、さらに獣の毛皮をまとっている。こうした意匠が、太古の女神としての権威と威厳を際立たせている。
媧皇宮に至るには、曲がりくねった十八盤と呼ばれる山道を越えなければならない。そして断崖を登りきると、空へ突き出るようにそびえる「媧皇閣」が姿を現す。高さ23㍍、4層構造のこの建造物は、崖にうがたれた石窟が第1層となり、その上に3層の楼閣が積み木のように組み上げられている。
楼閣の第2層へ進むと、壁には色鮮やかな近代の壁画が描かれている。これは、女媧が天を補修した壮挙をたたえるものだ。参観者たちが壁画に見入っていると、突如として楼閣が前後に揺れ始めた。驚き、戸惑う人々の間にガイドの声が響く。
「ご安心ください! 人が多くなると揺れますが、すぐに元に戻りますので!」
なぜ人が増えると楼閣が揺れ、また元に戻るのか? その謎を解くため、ガイドに導かれ、狭い階段を上って第3層へと向かう。楼閣の背後に回ると、驚くべき光景が広がっていた。断崖にぴったり接していると思われた媧皇閣は、実際には山肌とわずかな隙間を空けて建てられていた。見上げると、楼閣の上部には二つの大きな穴が開いている。これは「拴馬鼻」と呼ばれ、まるで象の鼻孔のような形をしている。その穴から伸びた9本の鉄の鎖が、楼閣の2層部分を岩壁へとしっかり固定していた。
この構造こそが、媧皇宮が倒壊しない秘密だった。力学的に、人が増えると建物への負荷が不均等に増し、重心が前へと移動する。すると木材の弾性によって楼閣がわずかに前傾し、それを支える鉄の鎖がぴんと張る。逆に、人が減ると負荷が軽減され、元の位置へと戻る。この構造のおかげで、楼閣には適度な可動性が生まれ、耐震性が向上しているのだ。遠目に見ると、楼閣がまるで鎖で山につなぎ止められているかのように見えることから、「活楼吊廟」と称されるようになった。
女媧は伝説上の存在であり、実在したかどうかは分からない。しかし、邯鄲を中心とする河北や山西には、彼女にまつわる遺跡が数多く残されている。これには、単なる偶然以上の意味があるのかもしれない。
伝説によれば、太古の昔、天が崩れ、地が裂け、大洪水が発生した。女媧は人々を救うため、五色の石を焼いて天の穴を補修したという。一方、科学的な研究によると、邯鄲一帯は「蝶形窪地」と呼ばれる地形で、これは太古の隕石衝突によって生じたものとされている。数千年前、この地に暮らしていた先人たちは、空から無数の隕石が降り注ぐ様子を目の当たりにし、その直後に大洪水が発生した。その出来事が、口承によって神話へと昇華され、やがて「女媧が天を補う」という物語へと結実したのだろう。
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