経済成長の新たな原動力シェアリングエコノミー
特集4 日本進出の鍵は決済法
呉文欽=文
「私は同居する高齢の母の通院にいつもタクシーを使っていますが、これが大変なんですよ。前日に電話しても、予約がいっぱいで断られてしまうことがあるんです。日本にもウーバーがありますが一般的ではないので…。中国なら『ディディ』から呼んで、10分待てばいいだけなのにと、いつも思っています」。チャイナウオッチャーとして活躍するフリージャーナリストの中島恵さんは、日本の不便なタクシー事情に不満を漏らす。
ディディは、近年中国で大流行中の配車サービスだ。スマホのアプリを開き、用途に合わせて車のランクを選んで出発地と目的地を入力後、「確定」をタップするだけで配車完了。アプリのシステムが数分で希望に合った車を探し、ドライバーにオーダーを送信すると、ドライバーは電話でユーザーに連絡後、配車場所に向かう。ユーザーがアプリの推薦車両から、プラットホーム経由でドライバーと電話連絡を取ることも可能だ。「支付宝(アリペイ)」もしくは「微信支付(ウイーチャットペイ)」で簡単に決済でき、タクシーに比べて料金がおおむね安いのがユーザーにとっての魅力だが、特筆すべきは「ドライバー」が専業者に限らない点だろう。たまたまユーザーの近くにいて目的地が近い一般ドライバーも、客を乗せて収入を得ることができるのだ。
ほんの数年前まで、中国も日本同様タクシー不足が深刻で、「タクシーがつかまらない」というユーザーの不満は多かったが、ディディの登場でそれが大幅に改善された。多様化するシェアリングエコノミーの中でも、ディディは特に成功した事例といえるだろう。
一方、中国人の「足」として急成長中のシェア自転車「モバイク」が、年内に福岡、札幌など10都市で運用を始めると最近発表され、日本国内で大きな注目を集めた。中国で大人気のモバイクが果たして日本市場で受け入れられるのだろうかという疑問に、中島さんは「モバイル決済の普及が成功の鍵」と語る。
普及のネックはモバイル決済
アリペイやウイーチャットペイなどのモバイル決済を用い、ディディやモバイクに代表される中国流シェアリングエコノミーは、その利便性から中国で順調な発展を見せている。これを踏まえ、日本の大規模小売店舗は、依然増加傾向にある中国人の訪日旅行者数を見据え、中国人の消費動向に合わせたアリペイやウイーチャットペイによる決済方法に注目し始めた。
小田急百貨店新宿店の化粧品売り場では、中国からの顧客を対象に16年9月28日から正式にアリペイを導入、今年1月27日からはウイーチャットペイの導入も開始した。関係者は反響について「お客様から『便利になった』『買い物がしやすくなった』という声を多数いただいています。当初の想定に対し倍以上の利用があり、順調な滑り出しといえます」と、予想以上の効果に手応えを感じている。
今年6月20日に日本銀行が発表した調査レポート「モバイル決済の現状と課題」によると、中国の都市部でのモバイル決済の利用率が98·3%なのに対し、日本のモバイル決済の利用率は6·0%と、中国に大きく水をあけられている。レポートでは日本での利用率低迷の原因として、アプリのダウンロードやカード情報登録などの初期設定の難しさ、機種変更時の作業の煩雑さ、日本人の現金主義の3点を挙げている。前出の中島さんも、「現金社会で生活する日本人は、現金の使用に不自由を感じません。対して中国は現金の使用に不便な場面が多々あるため、IT技術を生かしたモバイル決済が発展したのだと思います。日本のスマホ普及率が、中国より低いのも普及低迷の一因でしょう。日本はいまだにガラケーという中高年が結構多いです」と分析する。
まずはインバウンド需要から
モバイル決済の利用率が低い今が勝負と、商機を見いだす企業も現われ始めた。株式会社CHINA PAYMENT GATEWAYは今年1月、ウイーチャットペイの日本での普及に着手し、今夏のリリースを目指している。
「中国では大規模店舗のみならず、ぶらりと入った吉野家までウイーチャットペイなのには、本当にびっくりしました」。在日華僑で同社社長の芝山斌氏は、近年の普及率は想像以上だと明かし、78万人の在日中国人が日本の吉野家でウイーチャットペイを使う可能性を想像したことが、導入のヒントになったと語る。即座に開発元であるテンセントに連絡を取り、1年の準備期間を経て日本に数社あるウイーチャットペイの代理店に加わった。システム運用開始の正式発表に向け、すでに50の大型店舗やショッピングモールとの契約にこぎつけたという。「ウイーチャットペイの知名度は確かに低いですが、インバウンド事業を強化している企業や、中国関連企業からは大いに注目を浴びています。日本政府が年間4000万人の訪日客数を目標に、観光立国としてインバウンド強化の推進を図っていることも併せると、今後の大きな浸透は十分見込めます。まずは大手雑貨店や一部地域のコンビニエンスストアでの導入を皮切りに、規模を拡大していく方針です」と前途に自信を見せている。
モバイル決済と、それに付随するモバイクのような中国流シェアリングエコノミーが、今後さまざまな形で日本の社会に現われ、一般市民の生活に浸透していく可能性は高い。中日間の新たな協力ツールになるか否かは、今後の試行錯誤にかかってくるだろう。
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