未知との遭遇海を渡る生活革命の起爆剤

2023-05-29 15:11:00

特集6 シェアサイクルと日本の「壁」

呉文欽=文

北京師範大学の院生で、昨年秋から交換留学生として北海道大学に留学中の陳星玲さんは、北京に住んでいた時のように、ポケットからスマホを取り出してアプリを起動し、摩拝(モバイク)を検索した。「あった!」と興奮で思わず声が上がる。アプリの地図によると、一番近いのは300㍍先にある、セイコーマート円山北3条店のようだ。

陳さんにとって、北京での学生生活最大の楽しみは、週末にシェアサイクルを駆って胡同めぐりをすることだった。だから留学前に『人民中国』の公式ウイーチャットで、札幌でもモバイクのサービスが始まることを知った時、札幌でもモバイクで週末の散策ができると、期待に胸を膨らませていた。

ところがいざ札幌に来てみると、シェアサイクルのことを誰も知らない。級友は困惑顔で「モバイクってなに?」と陳さんに聞く。

中国発シェアサイクル、日本上陸 

シェアサイクルは、政府による「省エネ·低炭素」呼び掛けでエコ意識が高まるなか、2016年末に北京、上海、広州、深圳など中国の大都市で稼働を始めた。シンクタンクのiiMediaによると、17年7月までの中国主要都市におけるシェアサイクルは1600万台、市場規模は102億8000万元に上るという。

シェアサイクルの使い方はとても簡単だ。スマホから専用アプリを開き、使いたい自転車に印字されたQRコードを読み取れば解錠するので、あとは乗るだけ。目的の場所に着いた時に手動で施錠すれば、乗った時間で使用料が自動的にアプリから引き落とされる。料金は30分でたった1元(約17円)と、「ちょっとそこまで」にはとても便利だ。通勤や通学にもシェアサイクルは大活躍で、自宅から駅やバス停までの徒歩時間を節約してくれる。

「使い方は簡単だし、安いし、運動にもなる。いいことずくめなのに、何でみんな使わないのかしら」と陳さんは不思議がる。シェアサイクルは環境にも優しい。中国環境保護部(省)のデータでは、17年1月から11月の北京のPM2·5数値は、16年に比べ13·4%低下した。これはシェアサイクルの普及によるものという見方が強い。

中国市場が飽和の兆しを見せたことで、シェアサイクルの二大巨頭·モバイクとofo(オフォ)は日本市場進出を決めた。モバイクは昨年6月、福岡市に日本法人を設立して8月に札幌で試行開始、オフォは8月にソフトバンクと提携し、東京、大阪など大都市でのサービスを行うと発表している。当初この大手2社の進出は、日本のメディアでも大きく取り上げられた。

昨年8月に札幌で試行を始めたモバイクは、札幌駅とJR桑園〜琴似駅間のコンビニやドラッグストアの駐輪場での試行を皮切りに、12月下旬には、福岡市での試行をスタートさせた。一方のオフォは公式ツイッターで日本上陸を宣言したものの、のちにツイートが削除され、11月30日には「現在、国内でのサービス開始に向けて調整中のため、今しばらくお待ちくださいますようお願い申し上げます」とツイートし直している。続報が聞かれない背景には、中国での成功を直輸入できない、日本独自の「壁」がある。

駐輪場が最大のネック 

「乗り捨て自由」。これがユーザーにとっての一番のメリットであるし、中国でシェアサイクルが爆発的に流行した最大の要因だが、乱雑な駐輪など、マナー違反が目立っている事実も否めない。中国政府の関係部門は、業界の規範化や調整に力を入れ、駐輪問題の解決に臨んでいるが、中国よりはるかに厳格な駐輪マナーの日本で、いかに駐輪問題を解決するかが今後の行方を決定するだろう。モバイクは解決策として、チェーン店舗との提携を選んだ。札幌ではコンビニのセイコーマートやドラッグストアのサッポロドラッグストアー(サツドラ)各店舗にモバイク専用ポートを設置し、店舗側にはシェアサイクル利用者の顧客誘導をメリットにセールスを試みたが、導入からしばらく経った今も、前述の陳さんの同級生には体験者がいないようだ。

中国のシェアサイクルを「社会革命」と評価する、東京大学社会科学研究所の丸川知雄教授は、中国で駐輪問題が発生しない理由を「中国の土地は道路も含め全て国有で、管理が簡単だからです」と語る。対する日本は土地の所有者がまちまちで、公道と私道が混在することから、駐輪許可を取るには、所有者への説得をせねばならず、道路に自転車の放置を禁止する道路交通法があることから、駐輪場の確保には膨大な労力が必要だと指摘する。

中国二大巨頭は日本進出の難題解決に頭を痛めているが、中国での成功は、日本に大きな刺激を与えたようだ。セブンイレブン·ジャパンは昨年11月にソフトバンクと提携し、ソフトバンクの子会社が提供する「HELLO CYCLING」のポートをさいたま市内のセブンイレブン9店舗で試験導入。今年末までに、全国1000店、5000台の規模拡大を目指す。この動きを丸川教授は、「土地の確保を考えれば、手始めをコンビニにするのは正解でしょう。以降、他のコンビニチェーンも巻き込むことができれば、状況は変わるはず」と積極的に評価している。

利便性の周知で発展も 

「これが中国で流行のモバイクよ!」。日本でのモバイク体験後、陳さんはセイコーマートで撮ったスマホの画像を同級生に見せた。「あ、これなら前にコンビニで見たことある。旅行の時には便利だから使うかも」と画面をのぞき込むのは川瀬彩文さん。「バスより安いし、アプリで地図が見られるのは便利ね。中国みたいに乗り捨てができるともっといい」「コスパがいいから使いたい」と金森ひろさんと井手口幹樹さんも、シェアサイクルの魅力に気付いたようだ。若者を中心に、今や日本人の連絡ツールとして必須とも言えるLINEは、昨年12月20日にモバイクとの提携を正式発表、今年上半期からユーザーサービスの提供を決定した。LINEとモバイクが行った合同記者会見では、東京などの大都市を皮切りに、全国へのサービス拡大を予定と語っている。日本進出の過程でさまざまな壁に当たっているシェアサイクルだが、知名度が高まり周辺環境が変わることで、今後の発展が期待できる。

札幌のモバイクは冬に入って一旦サービス停止となったが、同級生を連れた陳さんは、サイクリングで雪の札幌を楽しんだ(写真提供·陳星玲)
札幌のモバイクは冬に入って一旦サービス停止となったが、同級生を連れた陳さんは、サイクリングで雪の札幌を楽しんだ(写真提供·陳星玲)
自転車がぎっしりと詰め込まれた新宿駅東口の駐輪場。限りあるスペースに加え、放置自転車に厳格な日本のルールは、シェアサイクルの進出に大きなネックとなる(写真·于文/人民中国)
自転車がぎっしりと詰め込まれた新宿駅東口の駐輪場。限りあるスペースに加え、放置自転車に厳格な日本のルールは、シェアサイクルの進出に大きなネックとなる(写真·于文/人民中国)
左手前は北京市が設置したポート返却式のシェアサイクル。ポート返却が必須のため、利用者数は増えなかった。今は乗り捨て自由のシェアサイクルに完全に圧倒されている(写真·広岡今日子/人民中国)
左手前は北京市が設置したポート返却式のシェアサイクル。ポート返却が必須のため、利用者数は増えなかった。今は乗り捨て自由のシェアサイクルに完全に圧倒されている(写真·広岡今日子/人民中国)

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