未知との遭遇海を渡る生活革命の起爆剤
特集5 スマホ決済が変える生活様式
大熊祥子=文·写真
近年、中国のITインフラ普及は著しく加速している。携帯電話の契約数はこの10年で倍増し、所有率はほぼ1人1台となり、スマホ普及率は約6割を占めた。スマホアプリサービスも急速に発展し、利便性から瞬く間に市民生活に浸透した。中国人にとってのスマホは今や単なる通話やゲーム、動画視聴のためのツールではなく、ショッピング、フードデリバリー、タクシー配車やシェアサイクル、共同購入、割引クーポンの取得など、さまざまなシーンで活躍する必携ツールになった。ファイナンス·テクノロジー(フィンテック)が世界で加熱する中、中国はモバイル決済の普及で一躍、キャッシュレス(6)先進国となった。日本ではまだなじみの薄いこのモバイル決済について、もう一度おさらいしてみよう。
現金払いにはもう戻れない
「手軽で便利なスマホ決済がない生活なんて、もう考えられません。日本ではなぜ広まらないんでしょう」。そう首をかしげるのは、上海に留学中の大学院生、上西啓さん。留学生活3カ月の今、買い物、食事はもちろん、公共交通から研究作業まで、スマホが活躍しない日はないと言う(カコミ参照)。
使用頻度が最も多いのが、電子決済システムだ。「QRコード決済(7)で」と店員に告げ、提示のQRコードをスマホで読み取って送金するか、自分のQRコードを店側が読み込むだけで支払い完了。財布が小銭でふくらまない、クレジットカードのサインや暗証番号の必要もないなど、煩わしさからの解放に加え、各店舗の割引も時にある。店側にとっても、現金管理の必要がなく、偽札をつかむ心配がなくなるなどメリットが多い。
モバイル決済の主力は、アリババ·グループの「支付宝(アリペイ)」と、テンセントの「ウイーチャットペイ」の二つ。ユーザーは電話番号、銀行口座、身分証番号などをアプリに登録すれば使用可能となる。現在ではデパートから個人商店、自由市場に至るまで、多くの店舗がこれらアプリに対応し、使い勝手の良さに現金を拒否する店まで出始めているという。モバイル決済システムが広まりだしてからわずか一、二年だが、あっという間に支払い方法の主流となり、中国全土に根付いていった。
アリペイのアプリを開いてみると、機能は実に多彩だ。QRコードの決済をはじめ、送金、銀行振込、ネットショッピング、携帯電話料金チャージ、投資や保険の購入、タクシー配車、電車や映画のチケット購入のほか、公共料金の支払い、病院の受付、交通違反時の罰金支払いなどの公共サービスまでリンクしている。サービスの利便性を高めているのは、「決済」がスマホアプリ内で完結することだ。「中国では財布いらず」が広まったのは、スマホでの決済があらゆるシーンに浸透しているという実感があるからだろう。
人気アプリの新たな取り組み
最近は日本のデパートやコンビニでも、アリペイやウイーチャットペイの表示を見かけるようになった。またタクシー会社大手の第一交通産業が、中国の大手ライドシェア企業「滴滴出行」との連携を発表するなど、中国発のサービスは次々と日本に持ち込まれている。いずれも中国人観光客の利便性向上や消費促進を目的としているが、これらを利用して、日本人向けサービスを展開する道もあるだろう。
スマホで全てを完結させようと試みるアプリは日本にもある。国内月間アクティブユーザーが7100万人を超え、幅広い年齢層に支持されているソーシャルネットアプリの「LINE」だ。このLINEが、2014年12月に決済サービス「LINEPay」の提供を開始した。アリペイ同様、送金機能やQRコードでの決済機能を備え、ローソン、ドラッグストアのようなチェーン店以外にも次々と加盟店舗を増やしている。「LINEtaxi」は22都道府県の対応エリアで日本交通のタクシーを配車できるサービスで、迎車料金410円がかかるものの、LINEPayで支払いを完結することができ、利便性は高い。フードデリバリーサービス「LINEデリマ」は配達可能な複数店舗のメニューや配達時間が一目で分かり、配達料は店舗によるが、LINEPay対応店舗では支払いがアプリ内で可能だ。LINEは昨年12月に中国のシェアサイクル大手、モバイクの日本法人であるモバイク·ジャパンとの資本業務提携を発表し、使用手続から決済まで、全てアプリで完結するサービスの提供を予定している。現在LINEPayの国内ユーザー数はすでに3000万人を突破しているが、決済可能なサービスが増え、利便性が認知されれば、さらなるユーザー拡大にも期待が持てるだろう。
現金主義からの転換を
今やキャッシュレスは世界的にも大きな流れになりつつある。日本でも楽天EdyやSuicaなどの電子マネーやクレジットカードの普及は感じるが、支払いは依然現金のみという個人店や旅館も多く、現金主義の日本を強く感じさせる。しかし20年のオリンピック開催を控え、電子決済の拡大への取り組みは避けて通れない。中国で成功を収めたサービスが続々と日本に上陸し、日本社会に影響を与え始めている今、日本発のモバイル決済も、使用範囲の広まりと安全性を確保できれば、キャッシュレス化に大きく寄与できるだろう。キャッシュレス先進国の中国に学ぶ機会は、今後さらに増えるはずだ。
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