未知との遭遇海を渡る生活革命の起爆剤

2023-05-29 15:11:00

特集2 企業の慣習変える中国モデル

于文=文·写真

銀座大通りにそびえるハイアールのネオン広告(2013年当時)
銀座大通りにそびえるハイアールのネオン広告(2013年当時)

おしゃれなカフェや雑貨店が並ぶ東京の目黒通り。コーヒーのふくよかな香り漂うカフェラウンジでのんびり雑誌をめくるのは、コインランドリー(5)で洗濯中の主婦だ。スタイリッシュな服装で決めたプロデューサーの松延友記さんは、「当店は『新しいおしゃれスポット』としてメディアに何度も取り上げられました。利用者は多い日で300人になります。集客の秘訣ひけつはやはり、併設のカフェと洗濯機の性能でしょう」と胸を張る。

日本の洗濯機の普及率はほぼ100%だが、利便性からコインランドリーの人気が高い。そして、「新しいおしゃれスポット」の主役は、中国ハイアールグループの家電ブランド――AQUAだ。

中国のグループブランドの「奇跡」 

「使い勝手が良いからです」。なぜあえてハイアールグループのAQUAだったのかという問いへの答えは、至ってシンプルだった。見やすいパネルと簡単な操作性。専用サイトに登録すると、洗濯終了がメールで通知され、忙しい主婦でも洗濯の合間に家事ができる。電子決済システムも視野に入れているため、小銭を用意する煩わしさもなくなりそうだ。「ランドリー機器の稼働データの記録と分析システムがあるので、顧客や稼働動向が把握でき、経営戦略に役立っています」と、コインランドリーのオーナーも絶賛する。

ハイアールグループは1984年に家電メーカーとして設立、今では家電の世界ナンバーワンブランドに成長した。「2002年の日本市場進出の翌年、中国企業初のネオン広告を銀座4丁目に出しました」と語るのは、副総裁兼ハイアールアジアグループCEOの杜鏡国さん。11年10月には、三洋電機の日本と一部東南アジアの白物家電業務を買収し、日本ではAQUAとHaierのダブルブランドの展開を決定、12年2月に新ブランド「AQUA」を正式発表した。AQUA取扱店舗は17年上半期の段階ですでに2000余りと、日本にすっかり根を下ろしたと言える。ハイアールによる17年の統計では、コイン式洗濯機の生産量は業界首位、市場シェアの約75%を占めている。

一人一人が「小さなCEO」 

成功の秘訣は、ハイアールオリジナル経営理念の「人単合一」にあると杜CEOは言う。

「人単合一」の「人」は社員、「単」はカスタマーニーズを指し、社員がユーザーのために価値を生み、市場活性と自身の成長を促すという思いが込められている。社員一人一人を最高経営責任者(CEO)に見立て、担当部門のCEOとして顧客と触れ合うことで、ユーザー目線かつ斬新な製品を開発するためにつくられた経営理念だ。顧客ニーズを満たすと同時に、社員を業績で評価することで年功序列にとらわれず、余剰利益を直接社員の評価に合わせて還元している。

AQUAには旧三洋電機のベテランも数多く在籍するが、果たして日本企業とは真逆と言えるハイアールの発想が受け入れられているのか。「日本企業の年功序列は業績を共有することに重きをおいて、スタンドプレーを嫌う」と杜CEO。「当初、研究開発チームの若手を部長に抜てきしようとしましたが、彼の上には先輩社員が2人いました。日本企業は先輩社員を先に昇進させるでしょうが、彼らの定年を待っていたら、若手社員も定年間近です」

しかし市場の競争は待ったなし。杜CEOは「ハイアール経営理念」を活用し、日本での浸透に注力した。すると今度は、ボーナス査定は貢献度合か、従来通りの「恵みの雨」かという問題が浮上し、日本の理解を得るために半年の時間を要した。杜CEOの説得で、ボーナスに代わる「論功行賞」の実施で決着がついた。

現在、ハイアールの経営理念は、日本のグループ会社全てで実現されている。マーケティング&オペレーション本部ランドリーグループマネジャーの秋馬誠さんは旧三洋電機に在籍していたが、「私はハイアールの経営理念に抵抗はありません。自ら目標を出し、達成すれば報奨金が出るので、チーム一同むしろやりがいを感じています」と「人単合一」に肯定的だ。秋馬さんが所属する事業部の売上額は毎年15~20%の増加という抜群の成績を上げている。

日本を変える原動力に 

イノベーション重視のハイアールは15年、埼玉県熊谷市にアジア研究開発センターを開設した。技術開発部門では、開発チームを創業者、本社を出資者と見立てた「人単合一」で、新技術の利益を本社とチームで共有している。主に冷蔵庫部門の環境保護、鮮度保持、IT運用の技術開発を担う、コールド·チェーン先行技術グループマネジャーの星野仁さんは、発案から生産までの過程を「新製品を開発する際、われわれはまず本社に実用性と市場価値の予測を数字で示したプレゼンテーションを行い、本社の専門家による信頼性の検証に基づいた投資額が支給されてから開発に入ります。試作品、金型製造のステップを経て量産しますが、ステップごとに厳しいチェックが入り、競争力がないと判断されれば、投資額に関わらず完成間近でも即時開発中止です」と厳しさを語る。

中国と頻繁に行き来する星野さんは、「今は君の会社がリーディングカンパニーかもしれないが、3年後にはどこがトップかは分からないよ」という中国の企業家のシビアな言葉をよく聞くという。「中国の技術開発のスピードは、想像をはるかに超えています。安穏としていたら、激化する競争にのみ込まれてしまうでしょう」

「市場を見据え、サービス競争の先を行く」発想で、ハイアールは日本の家電業界に頭角を現したが、それは日本人の緻密さや真面目さ、完璧主義を旨とする「匠の精神」に支えられている。「ハイアールの成功は、長所で短所を補い合って実現した好例です」と語る星野さん。「日本企業は生存と発展のために、もっと世界に目を向ける必要があるのでは。企業体質や慣習も世界とリンクしていかねばなりません。中国モデルはもしかして、日本を変える原動力になるかもしれませんね」

ハイアールアジアR&D研究開発センターでは、冷蔵庫の鮮度保持の新技術を開発中
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