未知との遭遇海を渡る生活革命の起爆剤
粗製乱造、危険な食品、不安と荒々しさに満ちた発展、魔物のような脅威…。中国の印象について尋ねたら、多くの日本人がこう答えるだろう。しかしその印象を一旦脇に置き、日々の暮らしに目を向けてみれば、違う形の中国が見えてくるはずだ。実際、日本で生活するのに中国製と無縁でいることはすでに難しいし、本場さながらの中国料理を出す店の、美食を求める長い行列は日常の風景になっている。中国の経営モデルは企業に活力をもたらし、地方行政は中国人観光客の経済効果に期待を寄せている。伝統工芸の世界では、匠の技を学ぶ中国人の弟子に未来を託し、中国式eコマースやシェアリングエコノミーの商機を狙って動き始めた日本人も決して少なくはない。
長い歴史の中で、違いを知りつつお互いを受け入れあってきた(1)中国と日本。共有とウインウイン(2)の理念を携えた中国は、インターネット時代の今もまた日本にやって来た。中国と日本がこんなに近く、こんなに融合した時代はかつてない。中国はもう、あなたのすぐそばにいる。
特集1 じわり浸透、「中国直輸入」
阿羅美奈子=文 広岡今日子=写真
もし、日本の生活から「メード·イン·チャイナ」が無くなったらどうなるだろう。先日、4人家族の家から「メード·イン·チャイナ」を家の外に出してみるというテレビ番組を見たが、家電から衣類、靴、玩具、果てはLED電球まで619点が撤収されて、家がほとんどもぬけの殻になってしまった。
今やこれまで日本人の生活を支えている「メード·イン·チャイナ」だが、「安かろう悪かろう」のイメージはいまだ根強い。しかし一方、「中国直輸入」が日本人を魅了しているのも、また事実なのである。
本場の味で激戦区に挑戦
古書店の街として知られる東京の神保町は、東京の味を伝える老舗とラーメン激戦区として愛されるグルメの街でもある。そこに本場中国の味で進出したのが、「馬子禄 牛肉面」。シルクロードの要所·蘭州名物の牛肉麺を食べさせる名店「馬子禄」の海外1号店だ。中国人なら誰でも知っているその味を知る日本人は、決して多くないはずなのに、昨年夏の開店以来、行列が絶えない話題の店となった。
蘭州牛肉麺は別名「蘭州拉麺」とも呼ばれ、生地を引き伸ばし(拉)てつくられる麺が最大の特徴だ。馬子禄でも、細打ちから太打ち、果ては平打ちまで、職人が生地を自在に操る様子をガラス越しに見ることができる。もう一つの特徴はスープだろう。回族が多い蘭州の麺だから、スープもトッピングも牛肉。牛骨と牛肉に10種類以上の中薬を加えたスープはほのかに中薬の香りが漂うエキゾチックな味わいで、「日本のラーメンよりもくどくなくてさっぱり」と女性にも好評。7割が女性客という日もあるという。
中国人の居住者が増えるに従い、「日本式中華」ではない、中国人を料理人に迎えた本場の中国料理を食べさせる店は確かに増えた。しかし東京の馬子禄で厨房を仕切り、味の要と言える麺を打つのは、なんと日本人なのだ。100年以上の歴史を持つ馬子禄が、なぜ日本人に老舗の看板を任せたのか。店主の清野烈さんに経緯を聞いた。
老舗の看板に恥じない味を
清野さんはかつて、日本に「火鍋」の呼び名を定着させた中国火鍋専門店の「小肥羊」で、新宿店の店長を務めていた。そこで駐在や留学などで中国の味を知っている日本人が、本場の味を求めているのを見て、「これからはホンモノで勝負の時代」と悟ったという。その信念があったからこそ、なかなか首を縦に振らない馬子禄のオーナーを訪ねて蘭州まで再三足を運び、かつ自ら麺職人として修行を積み、老舗ののれんを東京で掲げることができた。イスラム教徒の決まりに従ってハラル認証の牛を使い、麺に使う小麦粉は専門機関に成分分析を依頼し、現地になるべく近いものを選ぶというこだわりは、「老舗の看板を背負うという責任があるから当たり前。味のばらつきが怖いから、チェーン展開も考えてません」という自負あればこそ。「食が中国を知るきっかけになれば」(清野さん)という思いがそれを支えている。
「安くて高品質」に変わる中国製品
「食」を生きるための基本とするなら、現代人にとってのスマートフォン(スマホ)はもはや生活必需品と言えるだろう。日本の大手各社が激烈な販売合戦を繰り広げる中、じわじわと販売台数を伸ばし、約4分の1のシェアを持つのがSIMフリースマホ(3)だ。
携帯電話に比べ、スマホはとかくコストがかかるのがネックだが、若者を中心に、カードを差し替えるだけで格安キャリアが使えるSIMフリースマホの人気が高まっている。海外への旅行や出張の機会が多い人たちにとっても、現地のSIMカードに差し替えれば使える手軽さが魅力だ。日本の主要メーカーが相次いでSIMフリー対応を売り出し始める中、ここ1年間、一貫してメーカー別販売台数1位を獲得しているのが、中国トップブランドの華為(ファーウェイ)である。高スペックの割に値段が手頃と、コストパフォーマンス(4)の高さが人気の要因だ。
ファーウェイはネットワーク基地局などを提供する企業として1987年に創業、そのノウハウを活かしてSIMフリーマスホなどの端末も手掛けるようになり、2010年には米国の経済誌『ファスト·カンパニー』で、「世界で最も革新的な企業」の5位に選ばれた。16年の売上高は5215億元の最高記録を打ち出し、中国のスマホ業界をけん引する存在として世界に知られている。05年には日本法人の「ファーウェイ·ジャパン」を設立し、日本市場向けの端末開発に力を入れている。
ブランド力強化が今後の課題
「現行機種の中で一番人気のPシリーズは、カメラ、充電、バッテリーのいずれもハイスペックで、日本で人気のiPhoneやGalaxyに勝ると言ってもいいと思います」と携帯電話ライターの山根康宏さんは絶賛する。「中国製が日本製をしのぐ時代になりつつあることは、スマホを見れば瞭然です。そろそろ日本人も自覚すべきでは」
とはいえ、今や世界販売台数二強のアップル、サムスンと拮抗し、3位につけるファーウェイの日本での知名度は決して高いとは言えず、ブランド力の強化が今後の課題となるだろう。最近はブランドソング「Dream It Possible」を16年にリリースし、YouTubeでのビデオクリップの再生回数が800万回を超える反響を呼んだ。少女が祖父と約束した「夢」をかなえようと努力する様子が描かれたプロモーションビデオ(PV)は、ファーウェイの「夢」にも重なるようだ。中国企業発で、着実に日本での歩みを進め、存在感を高めつつあるファーウェイの今後を、山根さんは「グローバル市場で闘ってきた強みに、日本での経験を加え、今後ますます目が離せない存在になるでしょう」と予想する。
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