未知との遭遇海を渡る生活革命の起爆剤

2023-05-29 15:11:00

特集7 期待されるEVとカーシェア

東京大学社会科学研究所教授 丸川知雄(談)

 

中国のインターネット経済は目覚ましい発展を遂げています。BAT(バイドゥ·アリババ·テンセント)(8)をはじめとする中国のインターネット関連企業が、スマホの機能を最大限に活用し、そこから派生した新たなサービス業を広めたことを、私は積極的に評価したいと思っています。

中国の新たなサービス業で最も良い点は、使い勝手を考慮してつくられていることです。スマホ画面を2回タッチするだけで使えるシェアサイクルは、アプリ一つで自転車がある場所から自転車を借りるところまでできてしまう簡便さが何より魅力です。使い勝手を考え、操作を極限まで簡便化したことが、中国でインターネット事業が成功しつつある理由だと思います。

対して日本のインターネット経済の発展はなかなか進んでいませんが、日本の平均年齢の高さが主な原因に挙げられると思います。人の新しいものを試してみようと思う気持ちは年齢が高くなるとともに減退していくからです。対して中国は年齢構成が日本より若く、新しいものにも抵抗が薄いのでしょう。もう一つ、日本の通信企業の既存勢力が強すぎ、かつそれら勢力の発想が古く、新しいことに挑戦しにくい土壌があることも一因かもしれません。

中国から新たなサービスや製品が日本に進出してくることに、日本のメディアも注目し始めています。ネガティブな面にせよポジティブな面にせよ、メディアの報道は真実の側面を見ていると私は思いますが、問題なのはそのタイミングです。シェアサイクルが日本でどのように紹介されてきたかを調べてみましたが、一昨年(2016年)の秋ごろからSNSなどで「とても便利だ」という声が急増しているのに、各メディアはシェアサイクルが広まり、駐輪マナーなどの問題が発生した時に初めて報道しています。これでは報道の順番が違います。新しいものが出てきた時には、まずそれを紹介するべきでしょう。トラブルを先に報道し、良いところの報道をおろそかにする方針には問題があると思います。

中国の相次ぐ進出は、日本人の生活を変えるほどのインパクトがなければ、日本経済の活力になることはまず考えにくいです。しかし、セブンイレブンがシェアサイクルを始めるように、中国企業の参入によって日本企業が変わっていく効果は期待できると思います。日本は生活の面で保守化していますので、中国企業が本国のやり方をそのまま持ち込むのであれば、特にサービスの分野では、かなり長い時間をかけて続ける必要があると思います。中国政府は電気自動車(EV)の開発に注力しており、企業はカーシェア(9)の市場開拓を進めています。EVとカーシェアは今の日本にとっても低炭素化を実現する上で効果的だと私は思っていますから、もし中国で成功し、日本にそのノウハウを普及できるのであれば、日本人の生活を大幅に変え、CO2削減にも寄与するでしょう。

EV普及のネックは充電時間が長く、自宅に充電機を設置するのが難しいことですから、カーシェアの活用が不可欠と私は見ており、シェアサイクルが普及した中国では、すでに解決の糸口が見えてきていると思います。ユーザーはシェアサイクルに使われている自転車のブランドなど気にしません。カーシェアも同じで、車種にはこだわらず、4人乗りであれば、目的地まで乗れればといったふうに、実用性を重視した発想に転換できれば普及が進むでしょう。車の見方が変われば、中国の自動車メーカーが悩んできたブランド力の問題なども、瞬時に解決します。今後カーシェアを含むEV普及が中国で実現すること、そして中国からノウハウが日本にやって来ることに期待しています。

(聞き手·構成=呉文欽)

 

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