PART 2　スピードが生活を変えた

張春侠=文 

馬車時代から自動車時代へ、さらに陸を飛ぶように走る高速鉄道時代まで、交通手段の進化や変化は、昔から人々の生活に大きな変化をもたらしてきた。現在、高速鉄道が世界をますます小さなものにしている。高速鉄道の沿線に住む人々の生活にも、ひそかな変化が生まれている。

■遠距離通勤族への朗報 

張侃さんは杭州出身で、二〇〇五年に大学院を卒業してから上海の浦東でITの仕事に就いている。

杭州に住む両親は、張さんの顔を見たいというが、彼はあまり実家に帰ることができなかった。「田舎に帰るのは、二、三カ月に一回くらいだったと思います。鉄道に乗るのはとても面倒でしたので。乗車時間だけでも二時間余りで、家に着くまで半日がかりです。そして、一晩寝たら翌日またとんぼ帰りでした」と、彼は語る。

後に張さんは、故郷でガールフレンドを見つけた。この時から、上海と杭州を行き来する日々が始まった。残業がない週末には、鉄道の切符をあらかじめ買っておき、二時間列車に揺られて杭州に行った。彼の事務室の机の引き出しには、鉄道切符のぶ厚い束が入っている。ピンク色の紙に鉛活字の古い鉄道切符から、現在のカード式の鉄道切符まで、彼とガールフレンドの七年にわたる「愛情マラソン」の証拠品だ。

「上海には成長のチャンスがありますが、住宅価格が高すぎますし、自然環境も杭州とは比べ物になりません。私と妻は慎重に比較した結果、家を杭州に置くことにしました」と、張さんは語る。

二〇一〇年十月二十六日、滬杭（上海—杭州）高速鉄道が開通した。「多くの上海人は家に帰るのに地下鉄を乗り換え一時間半かかるのに、私はたった四十分で杭州に帰れるようになりました」と張さんは嬉しそうに言った。

高速鉄道がもたらしたまったく新しい速度は、もともとははるか遠い二つの都市を、一つの「コミュニティー」に変えてしまった。京広高速鉄道の開通によって、より多くの沿線都市で、張さんのような「ダブルシティー·ライフ」を選ぶ人が増えつつある。

■バスも飛行機も打ち負かす 

「二十分に一本の頻度で、切符を買ったらすぐ乗車なんて、まるでバスに乗るみたいな気軽さです。所要時間も短く二時間余りで大連に着きますし」と、瀋陽で働く姜鑫さんは高速鉄道での移動について語った。

哈大（ハルビン—大連）高速鉄道が開通した後、瀋陽から大連方面に向かう列車は計三十九本となり、朝六時五十五分から夜八時五十四分までの十四時間には、二十一分に一本の割合で列車がある。

「以前は瀋陽から大連までの列車の本数は少なく、間隔もあまり均一でなく、さらに片道五時間ほどかかっていましたから、私のような瀋陽—大連間の通勤族にはとても不便でした」と姜さんは言う。そのため、値段が二倍であっても、三十分に一本ある「ビジネス·エクスプレスバス」を利用していた。

姜さんの言う「ビジネス·エクスプレスバス」は、東北地方最大の道路による旅客輸送会社で、その看板商品が瀋陽—大連線であり、週末ともなれば、切符の入手はとても困難だった。しかし、哈大高速鉄道が正式に運行を開始した後、ライバルに対抗して、このバスは瀋陽—大連線の片道料金を百三十一元から八十六元に値下げした。往復も百八十四元から百三十九元に下がった。

値下げ後の運賃が高速鉄道よりも三十五元安くなったものの、所要時間が三時間も余計にかかるとあって、このバスの集客率は激減した。交通部門の大まかな統計によると、哈大高速鉄道が運行を開始してから、瀋陽の長距離バス十一路線が影響を受けているが、大連線が一番大きな影響を受けていて、一日平均八割の乗客減少だという。

高速鉄道の影響を受けているのはバスだけではない。哈大高速鉄道開通の一カ月前、航空各社は東北三省のフライトスケジュール、運行ルート等について調整を行い、大連から長春とハルビンへのフライトは程度の差はあってもみな減便され、大連から長春へのフライトの減便率は七割に達するという。

同様に、京広高速鉄道の航空便への衝撃もとても大きいものだった。三月に航空各社が発表した来季のフライトスケジュールでは、京広高速鉄道沿いの武漢から石家荘、北京へのフライトが大幅に減少している。一番大きな影響を受けたのは北京へのフライトチケットであり、次々と値引き販売が行われている。北京から武漢へのフライトも、九割引き九十元の「白菜価格」チケットまで登場した。

【ミニ資料2】

「動車組」と「高速鉄道」の違い 

 

現在中国では、「動車組」と「高速鉄道」とは、鉄道運行タイプが異なる。動車組は時速200㌔クラスで、高速鉄道は時速300㌔クラスである。一般的には動車組は砂利の敷かれた線路の上を走り、高速鉄道の線路には砂利は敷かれていない。